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「元親・・・俺はやはり此処に来るべきではなかったんじゃないか?」
元親が落ち着いた後冷静を装って話をする。
しかし、いくら冷静を装ってても私の胸の激しい鼓動は止まらない。
「理、悪かった。
でも、俺はやっぱりお前のことが」
「好きだとかそう言う言葉なら言うな、もう聞きたくない。
たいして私のこともそう想ってもないくせに、こういうことするのは止めてくれ」
「たいしてお前のことを想ってないだと・・・?」
先程から目を逸らし続けていたが、ぱっと元親を見ると怒ったような表情だった。
まるで本気で怒っているような・・・。
声音も変わってしまった。
「じゃあこの際はっきりと言わせてもらう。
俺には同性だろうがずっと想い続けている奴がいる。
会えないとかそんなことは関係ない、それでも私のこの想いが消える訳がないんだ。 元親も早く祝言を上げてくれ、じゃあな」
居合わせづらくもなって私は立ち上がり、部屋を出た。
問題はそこからだった。
いくら元親と言えども主。
私は長曾我部軍の軍師だ。
戦は終わったばかりの為信頼とかそういうのの心配事はない。
それでも、城に住んでいる限り私は嫌でも元親と顔を会わせなければならない。
はあ、帰りたいな。
でも、帰れる訳がない。
私はお館様に誓ったのだから。
お館様を心の何処かで思い続けている限り私は帰れない。
覚悟は決めたのに揺らいできている。
もし私が男としていなかったら、普通の女子だったら。
きっと元親には出会わなかった。
・・・でも、よく考えたら弥三郎にも出会わなかったんだな。
弥三郎のことを考えるとお館様には感謝してもしきれないほどの恩があるのだと改めて気がついた。
でも、問題は元親だ。
私ばっかりで・・・、からかっているのか知らないが。
私は結構元親のこといい男だと思っていたのにな。
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