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「そういや元服だが、お前しないのか?」
「そうだな、させてくれなかったんだよお館様が。
 髪同様に男しかしないことは極力させようとはしなかったんだ」
「よく女ってばれなかったな」
「俺の場合父が結構急に死んだから一人前になってからっていう言い訳が使えたんだよ、まあ結局名前は変わってないが」

この孫八という名前はずっと使ってるという訳だ。
生まれて生きてきた中で半分どころじゃなくほとんど使っているし、呼ばれてもいる訳だから愛着も湧いてきた。


「ちなみに今理って呼ぶ奴はどれくらいなんだ?」
「此処に来た時点でお前だけだ、もういっそ孫八に変えてもいい気がするんだけどな」

実名より実際には偽名の方が多く使われている。
悲しい話であるが私にとって実名が面倒になることもある。
まあそれでも偽名に慣れてしまった現実の方が悲しい気がする。


「んな悲しいこと言うなよ、っていうか武家の女の名前ってのは秘密ってもんじゃねえのか?」
「それは姫とか呼ばれる人たちだろ、私は姫とかとは遠い存在だし、なりたくもない。
 知ってるか、世の中には人質みたいにされて嫁ぐ可哀想な姫もいるんだぞ?」

確か昔弥三郎の言ってたことだ。
今頃弥三郎はどこに嫁いでいるんだろう。
幸せだったらいいんだけど。


「まあ俺の姉がそうだった、幸せかどうかは今は幸せだと思うんだけどな・・・」
「そうか、とりあえず元親・・・どんな姫が来たって幸せにしてやれよ、どうせ人質取る取らせたの世だ」
「おい、さりげなくお前が嫁ぐ可能性を失くすな!」
「んなこと言ってもなあ・・・?
 だいたいもう縁談の話は進んでる訳だし」
「え?」
「とにかく戦だ、戦!
 人様の命預かってんだから真剣に考えろよ、その話するために来たんだから・・・」
「お、おう!」


まあ戦の言葉一つで目の色が変わるものだから元親もこの時代の男だと感じられる。
女とは違うところだ。
この戦が終わるころ、元親には見合いの相手が来る。

世の中の女の為に、と気合を入れなおす私だった。





  


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