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最近変な夢ばかり見る。
死んだはずのお館様と元親がもう一度戦って、元親が負ける。
そこで私は何も言えなかった。
お館様の家臣なら喜ぶはずなのに。
元親の家臣なら悲しむはずなのに。
私の心は何処かへ消えてしまった。
そして、死んだ元親が私を呼んだ気がした。
「・・・理、理?」
「あ、ああ?どうした!!?」
名前を呼ばれていたのになかなか気づかず、ハッとして勢いよく返事したのにも関わらず、仇となって笑われた。
「何だよ元親、人見て笑って失礼だぞ」
「いやいや、お前が原因だろうが。
で、何かあったのか?」
「実際には何もないんだけどな・・・」
「でも、最近夢で魘されてるって聞くけどな?」
「え、誰から?」
「女中たちがよく言ってるぜ、お前が夜中魘されてるのが聞こえるって。
大丈夫なのか?」
変な夢を見ている自覚はある。
でも、実際それで魘されてるという自覚はなかった。
大丈夫か、と聞かれて大丈夫とも大丈夫でないとも答えることはできない。
「大丈夫なはずだが、というか女中たちに迷惑が掛かってるんだな・・・気を付けないとな。
でも、俺に自覚がないのが困りもんだ」
「迷惑なら掛かってないと思うぜ。
だいたい考えて見ろ。
お前の部屋は奥にあるのに普通は人が行かねえはずだろ、だからお前の魘されてるの聞きに行ってる奴等は掛かりに行ってんだよ」
「はあ?何意味のわからないこと言ってんだ?」
「最近なお前が誰を嫁に貰うかで盛り上がってんだぜ・・・・・・くくっ、女が嫁貰うってなあ、はははっ」
いつもより元親が低めの声で喋ってるなって思ってたら笑いを堪えていたのか。
というか、私知らなかったぞ、そんなことで盛り上がってるって。
「生憎だが俺はまず祝言をあげる気もさらさらねえよ」
「はあ?
嫁を取らねえのはわかるが、嫁がねえって言いてえのか!?」
「ああ、俺は此処の軍師だ・・・命亡くなるまでは」
「それとこれとは別だろうが」
「だから意味がわからないことばっか言うなよ、あと喚くな、煩い、黙れ」
しっしと追い払うように手を振ると元親はそっぽを向いた。
・・・だから、どうしてこいつはこうも簡単に拗ねるんだ。
「元親ー?」
「・・・・・・・・・」
「元親ー?」
「・・・・・・どうせ俺はお前にとっては煩い奴でしかねえんだろ」
拗ねてるのはわかってたけど、そういうことで拗ねるか?
今まで元親に恩を感じたことは何度もある。
だけど、だけどなあ、また別になってくるぞ。
はあ、主と言えども元仇だ。
できることならこう言いたくなかった。
今回はもう言うしかないかと覚悟を決めて、元親を押し倒した。
「元親、私にとってお前はただの仇にも主にもならなかった。
勿論、悔しいけどいい意味でな。
いつの間にか私はお前のこと大好きになってんだ、お館様の忠誠心さえ見失わせられるほどに。
だから、もうちっと責任とれ、馬鹿野郎!!」
「理・・・・・・」
元親の目は丸くなったまま動こうとはしない。
ただ私を見つめて止まっていた。
・・・・・・何か、こう見つめられたままだと凄く恥ずかしいんだけど。
目を逸らそうにも何だか、雰囲気が逸らせられない雰囲気になってしまうし。
「あー、元親?」
「理、俺もお前が好きだ」
「そ、それはありがたいが、その何ていうんだ、そんなにガン見されると気まずいんだよ・・・」
「ははっ、照れんなって」
「別に照れてはねえよ」
恥ずかしさを隠すために元親をバシバシと叩くけど、その間にもやっぱり元親好きだなって思ってしまう。
お館様への忠誠心を薄れさせた原因というつもりはないけれど、そうなのかもしれない。
ただ、元親への想いが恋心になってしまったら・・・そう考えたら怖かった。
まあそんなことはないか。
元親は好きだけど、恋愛感情としては見ることはないか。
一瞬でも不安になって自分を笑った。
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