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「もう十数年前以上のことだ・・・」
「俺な、餓鬼の時自分が女だってあんまり自覚がないっていうか・・・まあ、とにかく女らしくなかったんだよ」
「まあそれは今を見ても感じるがな」
「っ、まあそれはいいが。
で、その時に海・・・、この前お館様と元親が対峙したとこな。
そこで、女子に出会ったんだ。
すっごく可愛くてな、でもその時その女子は自害しようとするまでに追い込まれてたんだ」
「っ!?」
「どうした?」
「い、いや、何でもねえ、続けてくれ」
話の途中で元親が何か心当たりがありそうな顔をした。
どうした、と一応聞くが何も言いそうにないので私は話を続けた。
「それで、その女子は私の大事な友人だったんだがな、別れが来てしまったんだよ。
・・・ああ、向こうの家柄は良くてな、俺なんかじゃどうにもできなかったんだ。
何しろ、女を男と偽ってまで一族を残すのに必死な訳だからな。
それで・・・、結局どうにもならず別れた。
その時に貰ったのが簪だった。
何て言ったと思う?
俺に、俺にだ。
簪を付けられるようにしてやる、ってさ。
その時心底その女子を嫁に、というか、家族にできたらなんて思ったほどだ。
それからだ、俺は髪を伸ばし始めたんだよ。
・・・そうだ、その女子は俺を初対面で女だと見抜いたんだ、凄いだろう?」
「はっは、そ、そうだな」
「で、それで別れてそれから会ってない」
「・・・・・・待て、その女から貰った簪は前してたよな?」
「前?」
私が簪を付けたのは女装した時一回きりだ。
その時に元親にー・・・、会ってた!
「わかってたのか?」
「そりゃわかるだろ。
お前の顔は忘れられなかった」
「・・・そこまで印象深い顔か?」
「いや、そういう訳でもねぇがな。
髪取っちまって悪かったな、そんな風に考えて伸ばしてたのも知らずに」
「いやいや、俺は今こうしていられるからいんだ。
だから、謝るならもしその女子にまた会えることがあるうなら謝ってやってくれ。
まあ、会えるのかどうかって、ほとんど不可能だが・・・」
「なあその女の名前って何だ?」
「・・・・・・今はちょっと言わないでもいいか?」
”弥三郎”
たったの五つの文字だけど、名前を呟くたびに私は寂しくなるからほとんど口に出したことはなかった。
ずっと心の中だけで呟いてきた。
「そうか、ならまた気持ちの整理がついたら聞かせてもらってもいいか?」
「ああ、頑張るよ」
「信じてるからな・・・」
「えっ、ー」
今一瞬元親の言葉が弥三郎の言葉と重なった気がした。
信じてる、確か別れの時にもそう言った。
私は今でも弥三郎を信じてるんだ。
改めてそう実感した。
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