19

それで、私が長曾我部家に来てから時間はあっという間に流れて行った。
もう、半月になる。

なのに・・・
なのに・・・・・・

戦を一回もしてないじゃねぇか!!



長曾我部家には平和な空気が流れていて未だに戦をするような気配はない。
これが、鬼の軍か?



「おう、孫八!
 暇そうな面してんなー」

同僚の福留儀重こと重が私の顔を見て言った。
暇そう・・・?
そりゃ仕方ないだろう。
戦をしない軍師だなんて必要あんのかっていう話だ。
平和をどうとか言わない。
まあ、平和っていうのはいいことだ。
でも、日ノ本中の民の為には早く天下を獲ってほしい。

「俺軍師なのに此処に来て何もしてないんだぜ?」
「はっは、アニキも頃合見てるからな。
 もうしばらくは我慢だ」
「頃合・・・?」
「何言ってんだ!
 今は収穫の時期だろうが、軍の中にゃ半農の奴等だっている。
 なのに、そんな時期に出てられるかってんだ!」


・・・。
何だか納得いってしまった。
戦をしないのはちゃんと考えてるからなんだな。
ならば、今私が何を言っても仕方ない。


「重、ありがとな。
 俺そのこと知らなくてなー・・・。
 ちょいと元親の様子でも見てくるよ」
「お、アニキのとこか!
 政ちゃんとやってなかったらしばいてやってくれ。
 どういう訳かアニキ孫八には手え上げねぇもんな」
「確かにな、じゃあな」


後ろ手で手を振り、私は元親の元へ向かった。




「元親、ちょっくらいいか?」
「おう、孫八か!入れよ」

襖を開けて見ると元親はちゃんと政をしていた。
これならしばく必要もなさそうだ。


「で、どうした?」
「ちょっとな、聞きたいことがあってよ」
「ん、まあいいが。
 ・・・・・・っていうか、お前こっちに来てから口調だいぶ荒れてねぇか?」
「ああ、そうか?
 それなら仕方ないだろう、ここの影響受けてんだからな。
 本山では俺に悪影響を及ばす奴なんか一人もいなかった」
「お、おう、そうかよ・・・」

元親は”悪影響”という言葉に反応し、ちょっと拗ねたのか顔を背けた。
此処の当主は一体いくつだ!


「・・・元親、俺個人的にお前の国が好きだぞ。
 戦乱の世って言っても民が笑顔で暮らしてる、十分幸せなことだ」
「理・・・」
「だからその名で呼ぶなって!」
「大丈夫だ、誰もいねぇから、な?」

私を宥めるつもりになったのか頭をわしわしと撫でる元親。
・・・もう本当に感情の変化が激しいな。


「あ、で、聞きたいことって何だよ?」
「あー、そうだ。
 俺さ、暇なんだけど、することないか?
 女中の手伝いでも何でも有る程度だったらできるからな」
「おまっ、それは駄目だろ。
 俺が理って呼ぶより女ってばれやすいぜ?
 ・・・まあばれてもいいんだったら俺のめかー」
「ごほっ、・・・・・・悪いが聞き取れなかった」
「悪かった、今のは俺が悪かった。
 で、暇なんだよな・・・」


当主が一生懸命に働いているというのに雇われのみの自分がとにかく暇だったということを改めて感じる。
そして、罪悪感を感じる。


「なら、ちょっと待ってろ」


元親はそう言い残して部屋を出た。

  


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