16
「長曾我部へ付きます」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
不思議と反論は無かった。
ついでに言うと、賛同でさえなかった。
それは幸か不幸か、わからない。
「若君さんよ、それでいいんだな?」
反応がない若様を前に長曾我部元親は確かめるように聞いた。
「言ったであろう、孫八に任せると・・・。
それで、長曾我部方からは本山に何も要求はないのか?
付くといえども、我が国は敗国だ」
「そういうのは別に大してなかったんだがな。
・・・こいつを貰ってもいいか?」
そう言って指さしたのは私。
・・・・・・って、ええ!?
私?
「何を言っているんだ」
「何って、お前が欲しいってことだが?」
「いやいやいや、俺は何の役にも立たねえだろうが!」
「孫八!」
「は、はい、若様」
「そなたは長曾我部方へ行く覚悟はあるか?」
「ええっ?若様、本気でございますか?」
「・・・確かにそなたを失うのはこちらにとっても痛手だ。
でも、それよりも大事なことがあるだろう。
我らが理想を叶えなければならぬ」
亡き父上の為に・・・、若様はそう付け加えた。
・・・そうだ、何時まで経っても私だけが前に進めないでいたんだ。
覚悟は決めたはずなのに。
「若様、俺は本山の為に例え火の中水の中・・・何処へでも行って参ります!」
『吉良殿っ、本当にそれでよろしいのか!?』
『若様、これからは我らはどうしていくつもりでござりまするか!?』
異動に関してはいろいろと問題があるらしい。
それでも、だ。
「皆、俺は本山としていく。
だから、若様のことは頼んだ!」
「そんな、吉良殿・・・」
後ろ髪が引かれるような思いもする。
でも、此処に何時までもいたら進めないような気がした。
「若様・・・、いえ、お館様。
俺は今日にでも此処を出ます。
今までお世話になりました」
「ああ、こちらこそ世話になった。
でも、必ず戻ってこい。
気を付けて行って参れ」
父を失ったというのに若様の成長ぶりには涙が出そうになった。
唇を噛み締め、私は長曾我部元親殿と共に大広間を出た。
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