15

私は迷っていた。
このまま本山の城に戻るか、海で死のうか・・・。

でも、目の前にはお館様の亡骸。
放っておける訳もなく、私はお館様のすでに冷たくなった亡骸を背負い、城に向かって歩き始めた。


「なあ、そいつの次に偉い奴は誰だ?」
「きっと若様になるが・・・どうした?」
「そいつと話がしたい」
「・・・父親の死を悲しまない子が何処にいる。
 今日でないと駄目か?
 今日ではないと駄目なら俺が話を受け付ける」
「なら、俺を城に連れて行け」
「・・・・・・わかった」


長曾我部元親は私を手伝おうとお館様に手を伸ばしたが、私は目の前のお館様の敵にお館様の亡骸を持たすのは嫌だった。
もしも渡してしまったら、完全にこちらの負けだと身を持って実感してしまうだろう。
お館様の死、本山の敗北・・・−
全てが私を追い詰めようとする。





城に帰ると既に生き残った人は大広間に集まっていた。
城の外に長曾我部元親を待たせたまま、私は大広間へと足を踏み入れた。

「吉良殿、無事であったか」
「・・・俺は無事でした、しかしお館様はー」
「その話は聞いておる、お館様は自ら戦ったのだと。
 その姿見受けられたか?」
「最期まで見ておりました・・・。
 何もできぬまま、・・・俺だけが生き残ってしまい申し訳のうございます」
「そう、自分を責められるな。 
 吉良殿は我らの誇りだ、何時でも義を通そうとする乱世には中々おらぬ逸材だ」

そして、義を通そうとした結果お館様を亡くしたというのに。
それでも、誰も私を責めようとしない。
それが、私にとって逆に苦しかった。


「話は変わりますが、敵国の大将である長曾我部殿が見受けられております・・・」
「長曾我部・・・殿・・・・・・」
「・・・入ってきてくだされ」
「・・・おう」


一斉に静寂な雰囲気になったまま、入ってきた男はこの場にいる全員の主の仇だった。
でも、誰も何も言おうとしない。

ただ、自分の情けなさを悔いているだけだった。
それは、私も含めて。



「わかっていると思うが、この戦は長曾我部が勝った。
 ・・・でも、俺らはこのまま本山を皆殺しにしようとかそんな物騒なことを考えてる訳じゃねえんだ。
 ただ協力してほしい、民が笑っていられる地を作ることを」

その長曾我部元親の言葉は胸に突き刺さった。
民の為に戦って、悪い時は民を巻き込む。
・・・本当に矛盾している話だと思う。

それでも、我らにとっては理想だ。
その理想を現実に代えるために戦っているのだ。


「俺は本山の軍師として成せなかったとしても願は同じです」
「・・・吉良殿は長曾我部殿に賛同か?」
「俺は民の為に、そして・・・亡きお館様の為に平和な世を作りたい。
 たとえ、お館様の仇の元ででも・・・」


「ならば、孫八・・・そなたに本山の未来の方向性を決めることを命じる」

「え、若様っ!?」

突然声を張り上げた若様の命。
それは、咄嗟でしかも大きなものだった。


「俺が、ですか?」
「ああ、父上の信頼の熱いそなたの決断なら皆を納得させられる」

「それならば・・・」

私は大きな決断を任された。
そして、大きな決断を下した。

  


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