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「お前は此処によく来るのか?」
「私ですか・・・?
此処へは幼いころはよく来ていましたが、最近ではすっかりです」
「そうか」
すっかり日が暮れようとしている。
夕焼けに包まれ、お互いの顔が赤くなっていく気がした。
「元親様は私なんかとお話ししていてもよいのですか?」
「え、何でだ?」
「何で、と聞きますか・・・。
私は初めて会った訳ですし、話せる身分という訳でもありませんよ」
「そう、考えるか・・・。
俺はそういう縛られた考えは生憎持ってないもんでな。
ただお前と話したかったから話した、それだけだ」
「左様でございますか」
「そうだ、例え敵国同士の身分柄でもな?」
「っ!?
一体何時から?」
まさか気づいていたとは夢にも思わず、再び危機感が募る。
「言ったろ、見ねえ顔だって。
俺の国じゃ俺をお前みてえに思ってる奴は少ねえよ」
「・・・私はあなたに殺されるのですか?」
「はっはっは、んな物騒なことしねえよ!
だいたい、女に手を出すのは意味が違うだろうが。
安心しろ、別に取って食うこともしねえから。
単純にお前と話したかっただけだ」
「わかりません!」
「そう言われてもなあ・・・」
疑いを捨てきれず、距離を取った。
それでも、向こうは何も感じていないのか話を続ける。
「お前、その簪よく似合ってる」
「何を言ってるんですか、いきなり・・・」
「いや、思ったことを言ったまでだ。
随分綺麗だが、ちゃんと大事にしてきたんだな。
ちょっと見してもらってもいいか?」
簪に伸ばそうとした手を咄嗟に払った。
その行為に驚いたような顔をされた。
でも、それは当たり前だろう。
「これに触らないでください!
あなた方には安価なものなのかも知れないっ!
それでも・・・、それでも私にとってはこの世で私の命にも代えられない大切なものなんです!!」
「・・・悪い」
「・・・いえ、こちらこそ。御無礼を」
感情がだいぶ昂ぶってしまい、敵国主相手に怒鳴ってしまった。
感情的になってしまったことには反省をする。
「この子も寝てしまったようですので、私は失礼します」
「おう・・・またな、理」
「また、はないと思いますけどね。
失礼いたします」
こうして、長曾我部元親と私は別れを告げた。
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