09

やっとのことで逃げ出し、一休みしようと来たのが海。
思えば。
ここで、弥三郎と出会った。

今考えたら出会い方は最悪だ。
一方が死のうとしていたのだから。

あの時もし出会っていなければ弥三郎はこの世に間違いなくいなかっただろう。
出会いもしなかった。


そう考えたら、あの時止めていて良かったと思う。
・・・今ここで出会えたなら弥三郎はどんな反応をするだろうか?

女であってもいつも男の身なりだった私が、今こうやって女子の格好をして、あの日に貰った簪を付けているのだから。

弥三郎が今此処にいたら・・・、
そう想定して喜んでいる自分がいた。
随分甘ったれた考えだとは思う。
それでも、・・・それでもだ。
やっぱり、私には弥三郎は大事な奴だった。
いや、”だった”じゃない。
今でもそうだ。

私は弥三郎が大好きだ。



「ははっ、やっぱり私はまだ成長も何もできていないようだ」

やや自嘲気味に笑っていると、どこかからか猫が擦り寄ってきた。
海辺なのに、である。
何とも珍しいことだ。
・・・でも、もしかしたら私を慰めるためにわざわざ来てくれたのかもしれない。

頭を撫でると、懐いてくれているのかもっともっととせがむ様に頭を寄せてきた。

「可愛いな、お前は。
 ・・・いいな、猫はこうやって自由で。
 私も猫だったら弥三郎に自由に会いに行くこともできたのかな?」

猫に何を話しても伝わらない。
その分愚痴を溢すと何だか楽になった気がする。


「そういや、お前帰るところがあるんじゃないのか?」

気になって問うてみるも、もちろん返事が返ってくるはずがない。
にゃー、としか答えない。

「いやいや、にゃー・・・、じゃあないだろう。
 私は猫の言葉はわからないんだぞ?」

にゃー、と猫はもう一度鳴いた。
まいった。
置いて帰るのも何だか気が引けるしな。

「私に付いてくるか?」

そう言った瞬間。



「そこにいたのか!」

後ろから男性の声が聞こえた。
反射的に振り向いてみると先程会った、あの長曾我部元親だった。

「おいおい、こんな海辺にまで来ちまって・・・。
 って、お前さっきの!!」
「はあ、どうも。
 さっきの者ですよ」
「・・・ま、まあとにかく俺猫を探してたんだ。
 捕まえてくれててありがとな!」
「いえいえ、偶然ですから」

良かったな、と猫に言い、抱き上げて長曾我部元親に渡そうとするものの、猫は嫌がり、再び私の膝に飛び乗った。

「あらら」
「悪ぃな・・・。
 こいつも頑固なもんだな、ったく。
 ・・・お前ちょっと時間あるか?」
「え、ええ。まあ」
「そいつが寝るのはもうちっと先なんだが、それまでちょっくら俺と話でもしてくれねぇか?」
「話を?」
「ああ」

断る理由も特に見つからず、私は目の前の敵になるのかもしれない男と話すことに決めた。

  


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