08

”岡豊の様子を探ってこい”


それが、お館様の出した任務だった。
岡豊は長宗我部氏の領地。
お館様が過去、襲ったと言われるところでもある。
理由はいろいろあるらしいが、もう私にはこの世の戦など全て仕方のないものだと思ってしまう。
しかし、多少の罪悪感はあった。


歩いて、やっとのことで岡豊に入った。

そこは、活気が溢れ町人たちも楽しそうにしていた。

「朝一番のが入ったぜ!
 そこの嬢ちゃん、安くしていっからどうだい?」
「ほらほら、ちょっとおいでになったらどうだい?」


皆幸せそう。
乱世の今に考えられない風景だった。
お館様の治められている地は、今は平和だ。

でも、ここまでの活気さは無い。




「あ、元親様だー!」
「アニキー、アニキアニキっ」
「きゃー、元親様!!」

町人たちが指さした方を見るとそこには、大きな魚を担ぎ上げた男と、その後ろの集団があった。



「今日のは小っせえが、おいしく食べてくれ!
 おい、野郎共!どんどん持ってきやがれ!!」

上半身ほとんど裸であったその人は、どんと豪快に町のほぼ真ん中に値するところに置いた。


「元親様、いつもありがとうございます」
「いやいや、俺らも好きでやらせておもらってるからよ!」
「そんな、そう言って私たちの為ではございませんかっ!」
「はっは、領民を守るのも俺の仕事だ!
 そんな堅苦しいこと言うなよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・え?
 
元親?
あの、長曾我部元親?

領主が領民の為に魚取ってきてるの!?
ええー!?

あまりにも衝撃の事実だった。
岡豊は別に人手が少ないわけではない。
・・・別に少なくても領主が海に出るなんてことはないだろう。

それに、長曾我部元親自身は当たり前のようにしている。
その当たり前のことが私には衝撃があってつい笑ってしまった。

瞬間に長曾我部元親と目が合ってしまった。

 
「あれ、見ねえ顔だな」

やば、ばれてしまったか?
とっさに目を逸らした。
逸らしたというのに向こうはずんずんと近づいてくる。

「・・・お前・・・」
「も、元親様っ?」

慌てて様を付けて呼んでみるが、どこか不審そうだ。
無理もないかもしれないけど、じっと見つめてくる。


「あ、あの私の顔に何かついてますでしょうか・・・?」
「いや・・・。
 お前さん、名は?」
「え、孫はー・・・理でございますっ」

ああー、墓穴掘ったかも。
男の方も駄目だし、って考えたら本名でちゃったよ!!

「理だとっ!?」

やばい、と考えてたら驚いたような顔をされた。
もしかして、私のこと知ってたり・・・?


そんな訳がないか。

でも、今の私にはおちおちそんなことを思い出している暇もなければ、考えている暇もない。


「失礼いたします!!」


ただそう叫んで、逃げるように去っていった。

  


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