16.真と罪と

さっそく政宗様の部屋に戻って寝ている政宗様を起こそうとすると可愛らしい声が聴こえた。


「まったく…人を自分で呼んでおいて、居眠りですか」
「……ん、名前か。いつきは?」
「政宗様が眠っている間に帰りました。人がずんだ餅作っていたというのに」
「だが、結構進んだぜやるべきことは」


今日終わった分の書類等を見せると自慢気に言う。
私も今日はいろいろと仕事をしてはいなかったので何とも言えないけれど。


「それで、ずんだ餅は?」
「…本当あなたに食べられるのが一番嫌なんですけど」
「また俺が作った方がうまいからとか言ってんのか?うまいぜ、これ」


ずんだ餅を不味く作るほうが難しいとは思うけれど、政宗様のは格別に美味しい。
だから食べさせたくないというのに。何の対抗心なのか自分でもわからない。だけど、食べさせたくないものは食べさせたくないのだ。


「ありがとな、名前」
「お礼には及びません」
「まあそう言うなって…ほら、来い」


手を引くとまた口付けを落とそうとする。


だけど、私にはまだ政宗様に言わなきゃいけないことがあるんだった。
そのまま政宗様の唇を手で抑える。
本人は不本意そうにするものの止まってくださった。


「政宗様、大事なお話が」
「…何だ?」


背筋を伸ばして姿勢を整えて、政宗様に向き合うと緊張の糸が張る。


「今まで言っておりませんでしたが、私は…」


ああ、言ってしまったあと政宗様はどんな反応をするんだろうか。
いつも通りに接してくれるだろうか。いつきちゃんのように優しく接してくれるんだろうか。
だけど、私はずっとそばにいた身。
黙ってたのには変わりない。



『百姓の出』


政宗様と…言葉が重なった…?


「どうして、それを…」
「知ってた、というか親父に初めて会う少し前から聞いてたからな。
 俺が好きだと言ってもしかしたらそのことで悩ませるかもしれないと思ってた、だからその時に名前から自分のことを言い出すんじゃないかとも思ってた」
「こんな私でも…好いてくださるのですか…」
「当たり前だ」


今度は強引に唇を奪われた。だけど、私には拒む力も出ずに頭の中で混乱したまま。


「俺はどうしようもなく名前が好きだ。俺のこと絶対に惚れさせてやる」
「政宗様…」


惚れさせてやる、そう言われて。
拒まなければならないというのに…。


だけど、今まで振り返ってどうしようもなく心を政宗様に振り回されたのは事実。
自分の気持ちを素直に考えてみれば、胸が締め付けられるように苦しい。

政宗様は幼少の頃、大きな心の傷を負ったというのに前を向き、立ち上がって民を守るために戦い始めた。
輝宗様が亡き後、私が父上を亡くして自分も苦しいはずだったのに慰めてくださった。
心まで清らかで、男らしくて。



ああ、私…政宗様のこと、溢れんばかりの気持ちでお慕いしている。



だけど、私は政宗様の気持ちに答えるべきではないのではないの?
私を取れば、田村との縁談はどうなる。
これは政略結婚だ。だから、これは…伊達だけじゃない、ここの民にも関係する。



「政宗様、私は」
「お断りなんてもんは聞かねえぞ」
「厳しいですね。だけどひとつだけ訂正を…私を惚れさせる?もう惚れてるのにどうするおつもりですか」
「名前っ…」


言ってしまった。だからもう引き返せないとはわかってるのにもかかわらず。



  


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