14.わかりやすくわからない

次の日、政宗様にちゃんとお話しようと機会を伺っていたもののとある来客者により機会は先送りにされてしまった。
機会が先送りになったので小十郎さんの畑でも寄ってみようかとも思ったけれど、政宗様に呼ばれ同席することになってしまいお茶を用意して持ってきたのだけれど。


どうしよう。いたたまれない。

政宗様が小さい女の子を、密室で押し倒そうとしているのだけれど…。すごく今この場から逃げ出したい。


「名前!いつからそこにいた!」
「あ、政宗の言ってたねえちゃんか!おら、いつきだ!」
「えっと、名前と申します…。政宗様、小さい女子に興味を持つなとは言いませぬがそのようなことを、日中から」
「誤解だ!!」


さすがに政宗様に幼女を日中から甚振る趣味はないと信じていたけれど。

改めて座り直して呼吸を整えて話をするに、いつきと名乗るこの子は先日の一揆を先導していた子供らしい。
政宗様が直々に声をかけて、ここへ呼んだんだとか。


「やはり、そのような趣味が…」
「違うって言ってんだろうが!いつきの武士の偏見がひどいからな」
「だけどおら、政宗は違うってわかってるべ?」


そのいつきちゃんの笑顔が愛らしくて、眩しいんだけど。
いろいろと言う前に、眩しさで何も言えなくなってしまう。


「事情はわかりました。しかし、私が呼ばれたのは何故です?
 私は武士ではございませんが」
「まあまあ、話を聞け you see?」
「ねえちゃんの話はよく聞くだ。ちっせえ頃から政宗をしごいて、今でも叱ったりしてるとか!」


確かにそうはしてるわけだけど、小さい子に言われると痛い。心がとっても痛い。
何だか悪いことしたみたいな気分になる。


「政宗様…あとでゆっくり話しましょうか」
「いつき!余計なことは言わなくていいって」
「あとは政宗がねえちゃんのこと大好き―」
「Stop!!!!!」


…うん。
さっきのことは聞き流すことにしよう。というのも久々にこんなに焦ってる政宗様が見れたことだし。私にとっては今日はとってもいい思い出だ。


「だから、俺をここまでにしてくれたのは名前があったからだ。そんで、名前の話をしたらいつきが会いたいって言うから呼んだ」
「事情はわかりましたが、私自身には何も面白みはないですよ」
「ねえちゃん!ねえちゃん!やっぱり政宗を変えたのは愛の力だべか!?やっぱり男を動かすのは愛の力だべか!?」
『っ!?』


いやいや、何を言ってるんだこのおませさんは。
というか私政宗様を変えた覚えなんてないし、そもそも愛の力って何。何それ。私が聞きたい。


「えっとね、いつきちゃん。政宗様を動かすにはね…ずんだなのよ、ずんだ餅なの」
「は?」
「男を動かすにはやっぱりずんだ餅。何かを説得するにもずんだ餅。一揆をやめさせるにもずんだ餅よ」


私にも何言ってるのかわからない。
だけどこれ以上にわからない愛の力とか、そんなふしだらなものを子供に教え込むわけにはいかない。


「というわけで今日もね、日中から政をなさらない政宗様のためにずんだ餅を作ろうと思うのだけれど一緒に作ります?」
「作る!作るだ!」
「では、政宗様。いつきちゃんをお借りいたしますので政、しっかりしてくださいませ」
「ちっ」


無理やり丸め込んだものの、私にとっては政宗様の舌打ちよりずんだ餅の方が問題だ。
作らないわけではないけれど政宗様が作ったほうが美味しいに決まってる。きっと最終的には食べるんだろうなと思うだけでちょっと憂鬱だ。



「ずんだ餅作るの一人じゃないなんて久々で楽しみよ」
「おらもだ!しっかし、ねえちゃん。惚れた弱みってのはすごいだ。政宗が思いのままだべな」
「へっ、いやいやいや、いつきちゃん大人をからかわないの」
「だってねえちゃんも政宗もお互い気持ちがわかりやすすぎて見てるこっちが黙ってたら恥ずかしいぐらいだべ?
 あー、おらもいつか恋してみたいだ」


やっぱり一揆衆を背負うだけあって、いろいろわかってはいても子供。
考えたり、憧れる姿も可愛らしい。


「…本人わかってないのが一番の難題ですけど」


だけど、わかりやすいと言われた本人がわかってなくて今頃になって政宗様に申し訳なくなってくる。
私にはまだ考えもできていないということが。



「じゃあ頑張って作ろうか、私用意出すから手を洗っておいで」
「わかっただ」


今の問題はずんだ餅。
そう思考を切り替えてはみるものの、それが更に政宗様に食べられるという問題を悪い方に考えさせて私にはいっぱいいっぱいだった。






  


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