10.交代

輝宗様がお亡くなりになって、政宗様が七日で法要を済ませ弔い合戦への準備を固めているころのことだった。
長い間輝宗様に仕えていた父上がよく落ち着いていられるものだと内心不思議に思っていた。


『政宗様が我ら古参の気持ちもわかっておる。慌てふためいても仕方のない話だ』


そんな風に落ち着いていたんだけれど。
でも政宗様が多くの古参の気持ちを知っての弔いをできると私だって思っている。父上と同じ気持ちであることには変わりない。



そんな矢先だった。


「名前っ」


いつも父と共にいる鬼庭左月様。慌てた様子で私のもとへ駆けつけてきて、珍しいことだと思った途端にくらりと目眩がした。


「…父上が、自刃、でございますか」


嘘だと思った。
いつも父をからかうように左月様が私をからかっているのかとも思った。

だけど、こちらが冷静になってしまうほどの落ち着いた物言いで。慌ててきたのは娘の私のことを思ってのこと。
伝えている時に羨ましいと思ったのだろうか。


父上の死を殉死という。勿論輝宗様の。

長い間仕えてきて、最期までお仕えする。そんな思いだったんだろうか。



「左月様、わざわざありがとうございます」
「意外と落ち着いているようだが?」
「落ち着いてなど…。ご存知の通り、二度目の父の死。そう簡単には頭もすんとは理解できておりませぬ」
「基信のこと責めてやってはくれるな。武士として立派な死だ」
「…嫌というほど身にしみております」



輝宗様のお墓の前で自刃した父上。きっと安らかな顔をしていたんだろう。
武家にとっての殉死はふたつある。ひとつは親族の出世のため。ひとつは主を想ってのため。
父上が後者であることはわかっている。
武家の娘になるように幼い頃から育てられ、頭では冷静に殉死というものを考えている。


だけどちっとも感情は冷静なんてものじゃない。
急いで城の裏にまわって一人になれば嗚咽をあげ始める喉に、止めどなく流れる涙。



「ちち、うえっ…っく、あ、あ、父上…」



『今この時からお前は遠藤基信の子だ、帰るぞ』

『さて…まずは改めてだ。私は遠藤基信、伊達輝宗様の家臣だ。そして、お前の父となる』

『私はお前を実の娘と見る』



実の父よりも私を守ってくれて、育ててくれた父上。実の娘のように愛してくれた。
もう随分と月日が流れた。
私もここまで大きくなった。


「どうして…私の大事な人は…こうも早く…」



私の元から去ってしまうのだろう。



「私が生き残たって…」
「伊達のために生きるって言った奴の言葉かよ」
「ま、政宗様っ?」


どうしてここにいることがわかったんだろう。
反射的に立ち上がるものの、強く抱きしめられて体勢を崩す。


「左月に聞いたんだってな」
「…はい」
「ひとりで格好つけんな」


指の腹で私の涙を拭うと、困った顔をして笑っていつぞやの二人きりで呑んでいた時のように額に口付けを落とした。



「名前…俺のために生きろ」
「政宗様…」


確かな意味はわからなかったけれど、頷かずにはいられなかった。
きっと伊達という意味、そうであると無理に理解した。






  


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