08.竜の顔

勝ち戦の宴を背に、静寂が広がる廊下を通れば目当ての部屋が近づく。


「お帰りなさいませ、政宗様」


静かに襖をあけると、ひとり酒を嗜む政宗様の姿があった。


「入れ」
「………」


無言で頭を下げて、部屋に入り近くで腰を下ろせば猪口を渡される。
大人になってから言葉は少なくなった代わりに、こんなふうにお酒のやりとりは増えた気がする。



「…せっかく宴を開いているというのに、どうしてあなたという人は女中たちの努力を無駄にするのです?」
「今十分に俺がいなくたって盛り上がってんだろ」
「否定はしませぬが」
「それに、戦に出てからあと何度一緒に酒を飲めるかどうか考えさせられるようになった」


私の顎を持ち上げて、困ったように笑いながら額に口付けを落とす。
今まで勝ち戦の宴を開いている最中にこうやって呼び出されたことはあったけれど訳を聞くのは初めてだった。
そして、政宗という名前に変わってから、困った顔をしているのも初めて見た。



「竜がなんて顔をしていますか」
「…HA!相変わらず厳しいこった、俺の手は」
「それは昔の話ではないですか。もう政宗様は泣かれない、お役目御免です」





涙を拭うのも、傷を癒すのもこの手ではなくなる。
政宗様の隣で笑うのも私ではなくなる。
私の立ち位置なんてあっという間になくなる。


歳を取る度に生まれてきた身分、今更になって思い起こされてくる。
政宗様にとっての私の立ち位置が刻々と削られていくのを感じずにはいられなかった。




  


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