04.監視令

遠藤家に連れてこられて、父上と話をして。
結局あの後母上とも話をして、この家の娘なのだと改めて諭された。

それからしばらくは読み書きや、お作法なんていうものをきっちり教えられてそれなりの武家の娘らしくなる頃に私は米沢城に行くことになった。



「あの、父上…」
「まだ用件を言ってなかったな、前に殿が梵天丸様というご嫡男がいると言っていただろう。殿がお前と会わせたいと言い出してな」
「そうですか、輝宗様が。でも私は遠藤の娘となりましても体は賎しい身分の身…よいのでしょうか?」
「短い期間でここまで立派になったお前を誰が賎しい者というもんか。頑張っておったのは知ってる、武家の娘たるもの胸を張って生きよ」
「は、はい!」




私が父上の子になったのは輝宗様のおかげだ。ちゃんとお礼を言わなければならないな、そんなことを思いながら歩いているとお馴染みの米沢城まできた。

中に入ると、あの頃のまま。輝宗様と小さな男の子が並んで座っていた。


「名前!久しぶりだね、元気だったかい?」
「て、輝宗様…お久しぶりでございます。おかげさまで遠藤の娘としてよくしていただいております」
「うんうん、なかなかに様になってるね…あ、基信ご苦労だったね」
「殿は私を思い出したように…仕方あるまい。名前、こちらが梵天丸様だ。挨拶を」


父上の視線の先の小さな男の子。この子が輝宗様のご嫡男らしい。
さっきは輝宗様に軽く隠れていてよくわからなかったけどとっても綺麗な顔をしている。黒髪といい、瞳といい、肌といい…見るからに生まれ持った幸いとしか言えない。
つい見とれてしまい、挨拶に間を置いてしまった私を父上が笑う。


「わ、私…名前と申します。以後お見知りおきを」
「ほら、梵」
「梵天丸だ、よろしくな名前」
「あ、はいっ」


右手を差し出されて自然な流れで握手を交わす。その光景が微笑ましかったのか、互いの父は和んでいるようだった。



「さて、梵。前にも言った通りこの子は俺の命の恩人だ。粗相をしたら俺が許さない。
 というわけで名前にひとつ頼みごとがある」
「私に?」
「そう、この梵天丸。誰に似たのか脱走癖がひどくてね、よければ一緒に勉強もとい、監視をして欲しい」


輝宗様がそう言うと梵天丸様がげっとした顔をする。そんなに脱走癖がひどいんだろうか。


「さすがに俺の命の恩人となれば梵も変なことはしない。な、梵?
 あ、ちなみに既に基信には了承は得ている」
「うう…卑怯だ」
「ち、父上にですか。父上が了承しているなら構いません、わかりました」


私が頷くのを確認すると輝宗様は懐から小さな袋を取り出してそれを私に渡す。中を開けてみれば金平糖…というものらしい。


「これは梵がちゃんとできたらご褒美であげる金平糖なんだけど、これを頼むね。二人で食べたらいいよ。
 ちなみに梵が逃げ出そうとしたらどんな手段を使ってもらっても構わない。それなりにやられない体にしてるつもりだから」


これにはどういった反応を返せばいいのかわからず、金平糖をしまいながら苦笑をこぼす。
それにしても相変わらず輝宗様はお侍様なのにお侍様らしさがあまりしない。



「じゃあ梵、明日から一緒だから楽しみだね」
「え、明日から…」
「はは、俺もすっごく楽しみだ」


父子の表情が本当に真逆で。期待されても困るという気持ちより、おかしいと思う気持ちの方が勝った。
どうやら父上も同じようらしく、袂を握って笑いをこらえているようだった。






  


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