03.私との別れ

「あ、あのー…」
「さあここが新しい家だ。細かいことは後でいい」


大きな屋敷に入ればやはり女中がいる。やっぱりなかなかのお偉いさんなんだ。そして、さらに奥へ入れば奥方がいるという。背中を押されながら中へ入れば上品に座る女性が一人いた。


「基信様…その娘は?」
「輝宗様が拾ってきた子だ、なかなかにできた子なのでもらってきた」
「まあまあ、相変わらずですね伊達も伊達家家臣も。思わず笑ってしまいますわ…名はなんというの?」
「…名前と、申します」


緊張で震えた声はちゃんと届いたのかよくわからなかった。だけどその人はにっこりと笑う。


「ならば、私は母ですね。名前、おいで」
「あ、あのっ、私みたいな―」
「遠藤基信が娘、では不服か?」
「そ、そういう訳じゃっ」


わざとなのかわからなかったけれど。ただすぐに否定した様子がおかしく映ったのか、奥方は声を漏らして笑った。


「悪いな、まずいろいろと話をせねばなるまい。母子水入らずはその後だ」
「ふふ、わかりました」


ぺこりとお辞儀をして、部屋を後にするとまた別の部屋に辿り付き中へ入るなり座らされた。


「さて…まずは改めてだ。私は遠藤基信、伊達輝宗様の家臣だ。そして、お前の父となる」
「…名前と申します。先ほどのお話は、真の話でございますか?」
「嘘ならここへは連れてこん。
 輝宗様の娘にするという話がまずいということもあるが、お前は歳の割になかなかしっかりしている。育てるのも楽しそうだ」
「はあ…」


いろいろと無理やりな話だとは思うけれど、だけど私が生きていくならばもうこの道しか残っていないんだ。きっと死ぬと言ってもあの伊達様に生かすと言ってしまった手前許しはしないんだろう。



「戦で家族を失ったと聞いた」
「っ…そ、そうですか」
「忘れずともよい、私を父と思わなくてもよい…だが私はお前を実の娘と見る」
「え?」
「私はお前を娘にすると言ったがお前は私を父にするとは言ってはおらぬからな。無理に父上と呼ばなくてもよい」



これは私の心を思ってのことなのだろう。この人の思いに応えなくてもいい、という。



「わ、私は…」



だけど、私が今この時から生きていくのはどこ?
そうだ…遠藤家。遠藤基信の子として生きるんだ。



「遠藤基信の、娘です」



もう昨日までの私じゃない。たとえ、体がそう染み付いても戻れない。



「ち、父上…」
「名前…」


ぎゅっと抱きしめられると、父様とは違う匂いが鼻をくすぐった。




  


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