02.新しい父様

わあ、ふかふかなお布団。こんなお布団で寝たことないや。


目を覚ませば、手に触れた布団がこれ以上のものなんてないのではないかと思うぐらいの代物。実際に私はこんな布団で寝たことはなく感動した。


「あの後倒れて、死んじゃったのかな」


ここは黄泉の国?
だからこんなにあったかくて、ふわふわなお布団があるんだ。そう言われれば納得できる。
だったら家族にも会えるかな。そう思った瞬間に襖が開いた。一瞬してしまった期待はすぐに消えてしまう。


「やあ起きたかい?」


見れば昨日のお侍様。勿論鎧などつけておらず、着流し姿だ。


「昨日は助けてくれてありがとう。君のおかげであの後基信が来てくれてね、なんとかここまで戻って来れたよ」
「もと、のぶ…?」
「ああ、基信は俺の家来。君が持っていた刀に気付いたみたいでね、優秀な奴だ」


あの、昨日見た馬に乗ってたお侍様か。確かにあの人が刀に気付いたおかげで私もホッとしたのを覚えてる。



…あれ。
だけど、ちょっと待って。
この人助かってる、ということは生きてる。生きている人は黄泉の国なんていない。準じて私も生きてる。


「ここどこですか?」
「どうやら本当に気を失ってたみたいだね。ここは米沢城。そして俺がここの城主、伊達輝宗だ」


伊達輝宗、その名前は確かに聞いたことがあった。伊達家、それはもう常識だと言っても過言でもないぐらいの名前だ。


「まだ名前を聞いていなかったね、君は?」
「…あ、えっと、名前です」
「そう、名前か。見たところ梵と同い年ぐらいなのにしっかりしてる」


目の前でにこにこ笑う伊達様に混乱しながら黙って話を聞く。どうやら梵というのは、ご嫡男らしく可愛らしいんだとか…。


「一晩も拘束してしまって悪かったね、君のお父上にもお礼がしたい。送っていこう」
「いえ…あの…」


もういない、私の父様。戦の惨事で亡骸もそのままだろう。きっと父様だけじゃない。たくさんの人が横たわっているままだろう。


「父様もいないし、私も帰る場所もないんです…ただの、死にぞこないなんです、私は。だから川へ戻るしか……」
「そうか」


こんなご時世よくある話。まだ家族だけがいないならば集落に帰ればいい。だけど、もうそれが私には残っていない。
何も残っていないのだ。


「うーん、困った…俺は君を死なせるわけにはいかない」
「へ?」
「名前は命の恩人だ。よく『やられたらやり返す』という言葉があるだろう?
 俺は君を生かさなければならぬ、ということだ」


『やられたらやり返す』というのは仕返しだという意味だと思っていた私は混乱する。こんな幸せな考え方、このご時世のどこにあろうか。



「あ、そうだ。おーい、基信ー、左月ー」



襖を開けて人の名前を叫ぶと、すぐに二人のお侍様が部屋に入ってきた。
一人は昨日私から刀を受け取った人、『基信』という人。もう一人は見たことのない顔だった。


「本当二人は相変わらず仕事が早いね、すぐ来ちゃった」
「殿が呼んでおいてなんですか、その言い草は」


知らない人は伊達様に呆れながら笑っていた。『基信』という人はその笑いにつられながら、私の前でしゃがむ。


「昨日は大義であった。よくやってくれた」


私にそう言った。
突然のことに私は何も言えず、ただ驚くことしかできなかった。だって、相手はお侍様。子供で、しかも育ちが町人ですらなく貧しい私にこんなことを言うなんて思わなかった。



「それで、話なんだけどこの子を養子にしようかと思うんだ」
『はい?』



伊達様が私の背を軽く叩きながらそう言った。一瞬耳を疑ったけれど周りと同じ反応をしている故に現なのだろう。


「殿、それは真で?」
「この子は命の恩人だ、生かす義務が僕にはある。梵も一人で勉強なんかもつまらないだろうしいい考えじゃないか」
「い、いい考えじゃないです!」


さすがにこれは私の問題。
伊達様が好意で言ってはいるものの、誰がどこの馬の骨かも知らない小娘を一国の長の娘にする。ありえない話だ。


「名前は嫌かい?」
「嫌とかそういう問題じゃ…私は、お侍様に、お世話になっていい身分じゃないんです」
「だが娘…名前といったな。養子に入ってしまえば身分はすぐに変わる、そうしたら物に溢れ、欲が常に満たされるぞ」
「おい、基信?!」


まさか養子を私に誘うような言葉が並べられるとは思わずに少なからず驚く。だけど、それに頷くのはどこか違うような気がした。


「そんな生活国のためにはなりません…子になるのなら、尚更」
「ほお…気に入った。殿、この娘を私が戴いてはなりませぬか。この遠藤基信、責任持ってこの娘を我が子として生かしまする」
「えー」
「まあまあ殿、義姫様の娘より先に女の子できちまったら義姫様がかわいそうですし。基信の子になれば梵天丸様も兄妹としてではなく友として見ることができる」




ここのお侍様たち、私の意見は無視なのか。勝手に話を進め出す。
だんだん難しい話になってきてとうとう何も言えなくなってしまう。



「それじゃあ名前。今この時からお前は遠藤基信の子だ、帰るぞ」


大きな手が私の小さな手を包み、にっこりと笑った。


なんだかここのお侍様は私が見てきたお侍様とはどこか違う。
優しくて、どこかあったかくて自然と涙がこぼれた。




  


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