二世代油

月日が流れ、私がこの時代に慣れていくのと共に信親が育つ。
とても嬉しいことではあるんだけれど、母としてやはり心配してしまう近い未来の戦。


「母上、只今戻りました」


この時代では運が良く、国主の嫡男として生まれた信親には、殺陣ひとつでもいい先生をつけて稽古しているらしい。
それに加えて、元からの器量。これからの期待も大きい。

稽古が終わるたび、私の元へ来てくれるけれど。
それも後何回続くのだろうか。

そろそろ14歳。元服してもおかしくない歳だ。
元の時代とは違ってこの時代の人たちは、精神が実年齢以上に発達してる。



「信親…ちょっとこっち来てごらん」

「母上?」


大人びていながらも、あどけなさを残す信親。
訳も分からず私の言葉に従ったものの、きょとんとした顔でいる姿が可愛らしい。


「手出して」

「え、あ、はいっ」


素直に出された手を握ってみれば、いつの間にかとても硬くなっていた。
こうして手を握るのは久しい。
稽古を重ね、豆も潰れてしまった硬い手は…元親さんを連想させる。


「ふふ、やっぱり信親は父上にそっくりね」

「そうですか!?」


妻の私にとって憧れの人は、息子の信親にとっても憧れの人。
すごく嬉しそう。


「うん。頑張ってるもんね。
 その手に父上にしてるようにおまじないしてあげる」


そう言って、文机から小さな小瓶を取り出す。いつか、私が元親さんから譲り受けた荏胡麻の油。
夫婦となってから、戦の前には元親さんの無事を祈りながら、彼の手に油を塗るのが私の仕事となっていた。



「ほら、そのまま手を広げて」


その時だった。


「おーい、二人して何ずっと話し込んでんだ?」


まさかの元親さんが私の部屋に入ってきたのだった。
突然のことに驚きで、油がいつも以上に漏れた。
ちなみに、こういう事態の時何故か信親は誰に似たのかわからないぐらい冷静。


「信親がなかなか部屋から出ねえなと思ったらそういうことかよ…俺には戦の前にしかやってくれねえくせによ」

「父上、嫉妬でございますか?」

「なっ、んなわけねえこともねえけどな………お前が言うんじゃねえ!
 名前、後で俺にもしろよ!」

「はいはい。もう、どちらが子供なんだか」

 
元親さんの割り込みがあったからか、信親はどこか嬉しそう。
それを見ている元親さんは何か言いた気ではあったものの、苦笑で済ます。


「どうか、信親がこれからも元気に育ちますように」

「…某は母上が大好き故、そう簡単にくたばることはございませぬ」

「そう言ってくれると私も安心ね」


どこまでできた息子なことか。
そういうできたところは、元親さんに似ている。


「それでは父上がお待ちですので」

「空気読めるところはどこかの誰かさんとはあまり似てないね」


元親さんに意地悪そうに笑うと、何故かその後信親が元親さんのくすぐりの攻撃を受けることとなる。


「おい、信親!ほんと、我ながらよくできた息子だな!」

「ひゃっ、じゃ、じゃあ、くすぐりはっ…うわああ、父上!!」


私の前では大人びていても、元親さんの前ではすっかり子供だと思わされる。
なんだか、ここはデジャヴ。
きっと信親も元親さんにはずっと敵わないんだろう。


「はーい、息子をからかうのもいい加減にしないと、塗りませんよ」

「ちっ、せっかく可愛がってたのによ」

「どこがですか!父上!」

「私からのお願い。許してあげて?」

「くっ…わかりました」


正直素直に言うこと聞き過ぎるところは心配ではあるんだけれど。
そのまま出ていった信親の後ろ姿に思ってしまう。


「じゃあ俺も頼むな?」

「はいはい。今日は特別ですよ?」

「おう!」


いつも通り油を垂らして、元親さんの手に塗りこむ。
信親と元親さんの手は似てると思ったけれど、どこか違う。やっぱり年季だろうか。


「今日久々に信親の手を握りました」

「そうか、俺は結構稽古見てる時に握るけど、名前なかなか機会がねえか」

「それだけ成長したんだと思うと嬉しいような、寂しいような感じですね」

「今日みたいにしたらいいじゃねえか。あ、だけど、俺優先な?
 そこは譲れねえよ」

「そうですね、私の部屋に来てくれる限りはそうしようと思います。
 元親さんの順番はどうなるかわかりませんけど」


おちゃらけて言ってみたものの、元親さんが信親より先に部屋に来るから言葉に意味は持たないと思ってる。
私の想像が当たっているのか、元親さんのデコピンが飛んでくる。


「もうっ、そんなことする人にもおまじないしなきゃならないなんて………どうか、元親さんとずっと一緒にいられますように」

「俺が名前から離れらんねえのわかってるくせに、本当毎度毎度言うよな」

「だって、好きな人相手なんですもん」

「俺もだよ」


額に落ちてきた口付けに、いい歳しながら顔が熱くなる。


先がわからない時代ではあるけれど、親子でいつまでも過ごせますように。
明日も明後日も元親さんと信親さんがこの部屋に来てくれますように。



愛する人と、その人との子供。
手に残る二人の手の感触が愛おしかった。




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信乃様!!!本当に遅くなってしまって申し訳ございません!!!
私生活が忙しく、半年以上待たせてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。゚(゚´`゚)゚。
改めまして、リクエスト本当にありがとうございました
元親の親子の話を書くのとっても楽しかったです(*^。^*)






    


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