一生敵わない
土佐にいる元親様に嫁いでから私は自分が変わっていったように感じる。
初めて会ったとき緊張していたくせに私は一目惚れをしてしまった。
元親様の容姿が男らしくて素敵だったのは勿論、私を嫁だと言ってくださった時の笑顔に心を奪われてしまった。
それからも私に対して向けられる笑顔に度々心を奪われてしまっていた。
でも、元親様のこと。
私には勿論、軍の方にだって女中の方だって接し方は同じ。
だからついつい私以外の人にあの笑顔が向けられたらむっとしてしまったり。
そんな自分を抑えようと元親様が城にいる時は、海に出られてしまうまでは心に元親様を充電だと邪魔になってしまわない限り傍にいた。
「名前、やっぱり俺が海に出ちまうのは嫌か?」
「へ、い、いえ、元親様が選ばれた道ですので私がどうこう言うつもりはございませんし。
それに海が似合う殿方こそ元親様ではございませんか」
「そうか…。
でも寂しいか?」
寂しいかと言われたら正直寂しいだろう。
好きな人になかなか会えなくなってしまうのだから、最近は仕方ないことだけれど海に嫉妬してしまう自分もいる。
だからといって、ここで弱音を吐いてはいけない。
受け止めると決めたのは自分だから、だから笑顔でいないと。
「私は元親様をいつだって想っております。
故に私は寂しくなることはございませ−わっ!」
「馬鹿、笑うなよ」
「も、元親様っ!?」
少し離れていたところで座っていたのにもかかわらず、腕を引かれて私は元親様の胸元に顔をうずめていた。
「俺だっていつだってお前さんのこと思ってるから。
城にいる時はずっと一緒にいてやるからよ」
「そんな…元親様にご迷惑をかけるつもりでは」
「迷惑なんかじゃねえよ。
だいたい名前いくつだ、まだ20も越えてなかっただろ…しっかりするのもいいが、たまには甘えろ。
俺が自信なくなっちまうじゃねえか」
「またそのような子供扱いを」
元親様の胸元から顔を上げると、ふにっと頬をつままれた。
「ばーか、男なら好きな奴の言うことひとつふたつ叶えてかっこいいところ見せてえもんなんだよ」
「元親様…それならひとつだけお願いが」
「ん、何だ?」
「どうか、その笑顔をせめて他の女の方には−…いえ、何も。やっぱり何もございません」
空気で他の女の方には見せないでとかそんなことを言いそうになってしまった。
焼きもちだなんて、私のほうが子供になっているんじゃないの。
「元親様、お気になさらないでください。
名前めは元親様のお傍に置いていただけるだけで幸せでございます」
「難しいな、他の女に笑うなってことだろ?
でも名前これだけはちゃんと聞け」
私が言いそうになったことを見抜いてしまった元親様はいつものような笑顔で、でもちょっぴりと意地悪そうに。
「俺が本当に愛しているのは名前だけだ。
だからお前さんにやってることはだいたい名前だけだ」
「私にしていること…?」
「こうやって抱きしめて反応楽しんでるのも相手が名前の時だけだ」
「もう元親様」
つい苦笑してしまうけれど本当は恥ずかしくて、嬉しくて仕方がない。
元親様が愛おしくて仕方がない。
やっぱり私は土佐に来て鬼に恋をして変わってしまってしまったのだろう。
嫉妬心と独占欲。
でもその二つより元親様には一生かかっても敵わないなという気持ちが勝った。
だからもしも次の世でまたこうして巡り会えるなら、元親様の余裕のひとつでも私の力でなくせたらななんて夢見るのだった。
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『昔のお前にもう一度』の転生前ということで相変わらずヒロインちゃんが子供扱いだったり、元親が相変わらずベタ惚れ設定だったりですが…
正直書いてて楽しかったですうふ
まお様リクエストありがとうございました!!
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