第八話

伊達君に新しく剣道を指導してくれる人を連れてきたという一言。
それを聞いた時、私はどんだけ嬉しがっただろう・・・
先輩と私じゃほんとに人手不足だったもん。


一応、と言って伊達君は私に許可を取りに来た。
何も知らない私は疑うことなくうんっ、と答えた。

今思えば、あの子・・・話しているとき、すごくニヤニヤしてたよね。


・・・放課後、道場へ着くと長曾我部君が胴着の姿で立っていた。
いやいやいやいや、なんでっ!?

「もしかして長曾我部君が今日からー?」
「お、おう、今日からよろしく頼むぜ」
「ちなみに段のほうは?」
「6段だから推薦もらえりゃ師範できるって言われたけどな・・・。
 で、先生は?」
「私は7だよ、一応教えられるように連盟から推薦もらってるからね」
「おお、すげえな」
「そんなことないよ、あはは・・」
「いやいや・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

・・・どうしよ、気まずい。
きっと私が何か言わないといけなかったんだろうけど、この前のがあって恥ずかしいとか思っちゃうんだよ。
あんなに男の人が・・・生徒だけど、近くにいたのはお父さん以来だもん。
不覚にもドキドキしてしまったしさ・・・。
でも、こんなこと理由になって避けてもいいってことはないのはわかってる。
だけど・・・緊張しちゃうんだよ。


「先生・・・この間はほんと悪かった、俺としてもほんとに何やってんだろって思ってる」
「わかってくれたならいいよ」
「いや、そういうことじゃなくてだな・・・」
長曾我部君はそう言いかけて私の顔へ手を伸ばす。
「お前さんを困らせようとか思ったわけじゃねぇんだよ、それでも俺は好きだってー」


「Hey!お、早いじゃねぇかお二人さんー!?」
「遅れたでござる・・・−!?」
私が何もできずただただ長曾我部君のペースに飲まれてる中、部のエース二人が入ってきた。
残念ながら、私たち二人はとっさに対応することができず、固まってしまった。

「っ、アンタら・・・」
「は、破廉ー、ぐぼわぁっ」
私たちを見て伊達君は真田君を連れて行って入り口から飛び出していった。


「・・・・・・呼んでくる」
「うん・・・」

長曾我部君は全速力で道場を駆け抜け、私はただただあたふためいていた。



「先生・・・すまんでござる」

三人仲良く帰ってくるなり、真田君が私に謝った。

「その、元親殿とのことは全てこの幸村を試すための試練だとは知らず、某は・・・某はーただいちゃついていたのだと思ってしもうた!
 精進するでござるっ、殴ってくだされーおやかたさぶわぁぁぁ」
・・・・・・ん?

「後々面倒になっても困るだろ、アンタらは教師と生徒だし・・・。
 気をつけろよ?
 っていうか、学校でいちゃこくなっての」
伊達君が私に近づいてそう耳打ちした。

・・・・・・ん?
別に私はいちゃこきたかったんでもないし、あの状況作ったの私じゃないし、別にただの生徒と教師ですけど?

「伊達君、何か勘違いしてない?」
「大丈夫だって、俺は誰にもいわねぇ you see?」
「"you see?"じゃないよっ!
 別に私たち普通の関係ですけど?」
「ha!」
そう笑って伊達君は私の肩をポンポンと叩き、二人の元へ戻って行った。
何・・・絶対何かしら誤解されてるよね、私。



ま、それから次々に生徒たちが来たので私は何も言えずに黙々と作業していた。
・・・作業と言っても、私の場合黙々と生徒たちの相手をしてるだけなんだけど。
この部、強弱の差がありすぎて相手がいない生徒を教師が補ってる訳ですよ・・・。

黙々としているうちに終了時間がやってきた。
それで、片付けて更衣しなきゃならないために私は一人道場を出た。


外は夏真っ盛りだというのに日が沈んだために涼しかった。
「はー、私はほんとにだめだね・・・」

毎日先輩を見て一日を振り返ってみたらへこむ・・・。
今日なんか長曾我部君相手で私のほうが段も上だというのにさっきのことを思い出すだけで負けた。
集中力が足りてなかった。
自分でもわかる。


久々に落ち込むわー。
私は教師のくせに教師らしからぬ態度を取って。
年下の、しかも生徒に気持ちをぶつけそうにもなるし。

泣きそうになって堪えてたのに、いつの間にか涙も出てきて、更衣室へなかなか帰れない状況になってしまった。

だから、道場の裏にあるベンチで頭冷やして気持ちが落ち着くまで座っておこうと裏へ行った。

「はー」
次々に出る、溜息。
そして、時間とともに比例して昂ぶる感情。
何時の間に私はこんなに自分を制御できなくなってしまったんだろう・・・。

「誰も来ないしもういいかな・・・」
もう涙は止められなくて、声だけ押し殺して私は泣いた。
泣くほどのことでもないというのは分かってる、でも止まらなくて。
そんな自分にいら立ちさえも感じてしまう。


「先生・・・?」
顔を上げた私の目にひとつの人影が映った。

「長曾我部君・・・?」


「・・・・・・俺のせいだよな?」
長曾我部君は黙って座るなり開口一番にそう私に問いた。
人影を見つけた瞬間に涙を拭ったつもりだったのにばれちゃったかな?

「私自身が弱いからだよ、心配しないで。
 もう下校時刻だからはやく帰りなさいね?」
心配を掛けるのは申し訳ないし、情けないので早く帰るように促した。
それでも、彼は帰ろうとはしない。
おそらく何かしら責任を感じてるのかもしれない。
きっと私が何を言っても無駄なのかもしれない。

「長曾我部君・・・私はね、別にあなたのせいで泣いたんじゃないよ?
 自分でも理由は分かんないから、大人気なくなってるの・・・」
「でも、今日俺の相手をした時どうして俺に負けた?
 お前さんなら勝てたはずなのにー」
確かに、段は私のほうが上だし、している期間も長く続いているわけだし。
でも、理由は分かってる。
「今日は集中力が無かったんだよね、だから私は今日は誰とやっても負けてたよ」
「集中力が無いだけで負けた・・・?
 それ以外の理由があるんだろ、今泣いてる理由もそれだろ?
 俺が泣かしたんじゃねぇか?」

長曾我部君が私の心を乱してるー?
違う、私が勝手に乱れているだけ。


「ごめん、私長宗我部君の前じゃ自分を保てなくなりそうで怖いんだ・・・
 ごめんね、ごめん・・・私今それぐらいちょっと駄目なんだ」
「ごめん・・・・・・」
長曾我部君は私の体を抱き寄せた。
「俺が困らせちまうから、そうだろ?」
「・・・・・・」

私はうんともスンとも言えなくて。
ただぬくもりが暖かくて駄目だと思いながらも、動けなかった。


「このこと目瞑ってほしいの。
 今だけちょっと疲れてるの、それで通してくれないかな?」
「もちろんだ、俺は何も見てない。
 お前さんが一人この場所で座ってるだけだ」

私は彼の肩に頭を凭れさせた。
ごめんなさい、今だけは私を教師にしないで。
長曾我部君を生徒にしないで。



わかってるのに、
なのに体が言うことも聞いてくれない。

頭でちゃんと今この状況わかってるはずだよね、私?

ああ、これが夢だったら私たち二人にとってどれだけいいんだろうね。


「ごめんね・・・」
私にはそう言うことしかできなかった。






  


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