第六話

長曾我部君に謝ろうー、
私はそう決めた。


かつてゲーテは言った、”20代の恋は幻想で・・・”
なら、10代の恋はどうなる?
幻想以下の若気の至り?


とにかく長曾我部君に映ってるのは私であっても私でない。教師である、私なのだから。
かつて、告白してきた人も今考えてみるといる訳だが、皆本気になるなんて事は無かった。別に、それが悲しいわけもなく、当然だった。
思春期の男子なんて皆一緒、長曾我部君だって例外ではない。

どうせ、すぐに忘れるー・・・

関係は変わることもない。
だから、言わないと、『ごめんね』をー。




放課後、一人教室に残る長曾我部君を見つけた。
これはチャンスだと思い、私は教室へ入ろうとした。その時、物陰に隠れていた女の子の姿が目に映った。

『私ね・・・あなたが好きです・・・・・・』

微かに聞こえてきた声。
これは完全に告白だよね?
モテるのは知ってたし、さんざん遊んできたということも聞いていた。だから、今のこの状況は普通じゃないの。
なのに、何故か私の胸はひどく痛んだ。


『俺な、好きな奴がいるんだよ・・・悪ぃな』
「っ!?」

まさか、断るとは思わなくて。
しかも、”好きな奴”と指してるのは自分化もしれなくて・・・意外な展開ばかりに驚くしかできなかった。

『そ、そんな・・・私じゃダメ?
 ・・・・・・元親ぁ』
その女の子は甘い声を出して元親に擦り寄った。
・・・これってあの”据え膳くわぬは男の恥”っていう状況じゃないの?
ここまでされて落ちない男はいないんじゃないかと思うほどにその女の子は長曾我部君に近づいて、そして抱きついた。


・・・−私が自分から言う必要は無かったんだね?
結果オーライって訳だよね?


『悪ぃ・・・』
長曾我部君は自分の体に絡められた腕を解いた。

『私・・・それでもずっと好きでいていいかな?』

『すまねぇが、俺の気持ちがお前さんに向くことはもうねぇと思ってくれ。
 今本当にそいつが好きで、俺は確かに昔はさんざん遊んできたがもうな・・・
 体だけとか、んな虚しいもんで満足できなくなっちまったんだよ』

『そんなの、幻想よっ・・・
 私はあきらめないよ』
女の子は涙を出しながら、教室を飛び出た。

「幻想、か・・・」 
なら、恋ってなんなんだろうね。

「長曾我部君・・・」
「お、おう!先生じゃねぇかよ。
 ・・・・・・さっきの見ちまったか?」
「うん。なんか、この前の逆みたいな感じだったよ」
「そうか・・・」
「・・・・・・」

状況が状況で気まずくて私は何か言葉を発しなきゃと思いながらも、それはできなかった。
しばらく続いた沈黙を断ったのは長曾我部君だった。

「すまねぇな・・・。
 俺から告白しといてだけど、受ける気はねぇが告られて」
「なんかそれだと告白の自慢みたいだよ」
長曾我部君が結構真面目な顔をして言うものだから何かと思えばそんなことで、思わず私は吹き出してしまった。
そんな私を見てか、長曾我部君も笑った。



「でもね、私言わないといけないことがあるから言うね」
「お、おう・・・」
せかっく、空気が明るくなったと思ったのに私の言葉でまた重くなる。

「ごめんね、私は教師なの。生徒との恋愛なんてできない。
 思春期だからね、いろいろあると思うよ。だから、今もそうなのかわからないけどそれは、私に対するその気持ちはー若気の至りだよ」
「そんなことねぇ!」

閉め切られた教室の中で長曾我部君の声が大きく響いた。

「・・・そんなことはねぇんだよ、確かにまともな恋愛をしたことあるかって言われたら、俺は何にも言えねぇよ」
「でも、今まで付き合ってた女の子がいたならそれで良かったんでしょ?
 私じゃなくてもいいんだよ。ごめんね?」

このままずっと教室で二人っきりでいるのほど私はそこまで精神的に成長していない。だから、そのまま出ようと振り返った。


そんな私の腕を掴み、教室の外から見えない位置にある壁に体を押し付けられた。

「長曾我部君・・・?」
「俺は、そう簡単にあきらめられる奴じゃねぇんだよ?
 お前さんが見た俺は生徒としてみた俺だろ、決して男としての俺じゃねぇ。 
 それだけで答えを決められるたぁ、いただけねぇな・・・」
「え、え?」
「名前・・・」

耳元で名前を呼ばれ、体はビクッと反応した。その反応を見るなり、長曾我部君はクックッと笑った。
え、こんな子だっけ?

「ちょ、ちょっと待ってー」
「なんだ、俺がこんな奴だったけとか思ってんのか?」
長曾我部君の発言が的を射て過ぎていてただ押し黙ってしまった。


「お前さんだけだ、ここまで俺を乱すのはー」


まるで、年上からの接しられているみたいで。そして、私自体がドキドキしてしまいそうでー。
怖くなってしまった私は長曾我部君を押しのけて教室を飛び出た。







  


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