第五話

長曾我部君に告白されても月日は止まらず流れるつづける。


そして、ついに教育相談期間というものがやってきた。この学校独自の進路相談みたいなもんなんだけど。放課後10分間、生徒と教師がマンツーマンで勉強のこととか日頃の過ごし方とか何気ない会話をする・・・要するに雑談。
普通は担任とすることになってるんだけど、事情があったりする場合は副担任が受け持つことになっている。
それで、今回私は伊達君としなければならない。これが、ちょっと憂鬱でもある。

伊達政宗ー
この名を知らない者はいないとされるほど彼は有名人だ。
容姿端麗、剣道全国レベルの達人。おまけに成績もそこそこ良かったりする。もう女としては一度は抱かれたいと思う人が多いらしくて女癖が悪いと聞いたことがる。・・・ま、ぶっちゃけ私はがちでそんなことを思わないんだけど。枯れてるかな?

部活で一緒に過ごすこともあるけど、何かと私を女の子扱いするもんだから苦手だ。生徒になんかあしらわれるとなんか調子狂っちゃうからいつもは、大人気なくスルーしてたりするんだけど。
彼はもう、私としたら絶対に一緒にアルコールの度数が高いお酒は飲みたくないレベルなわけですよ。

そして、もう一つ理由がある。
彼は成績がそこそこいいけれど、私の担当科目だけはどうもうまくいってないらしい。


「ふぅ」
放課後、胴着のまま伊達君と私は道場から教室へ向かった。

「あれ、まだしてる・・・」
教室につくとまだ終わってないのか、先輩と生徒の声が聞こえる。
えと、この声は・・・

「元親だな」
私より早く気づいた伊達君が声の主を当てた。

「どうしよ、まだやってるみたいだし着替えてくる?」
「アンタが一緒に着替えるなら俺はいいぜ」
「・・・・・お前はチャラ男か」
「ったく、相変わらずつれないな。ま、そこがアンタのいいところでもあるんだがな」

私のスルーついでに出た言葉にもうまく答えるもんだから、うま育てられてるもんだとも思う。ま、先輩だしさ。
でも、予想外な方向へも行ったと思うよ、この人・・・。


「ま、さっきのはJokeでいい。
 でも、元親面白そうじゃねぇか」
「悪趣味なもんだね・・・」
「ha!俺は知ってのとおり小十郎に育てられたからな」
「いやいや、関係ないと思うけど」
「あ、アンタの名前が出てるぞ・・・って、professされたのかよ」

な、なんてことを言ってるんだこの人は。っていうか、長曾我部君も何を話してるんだよ!!
っていうか、先輩も隙間から見たら呆れ顔だしさ。

「fnishだ」
会話を聞いていられなくて一人廊下で沈んでた私に伊達君は声を掛けた。
その声とともに、長曾我部君も出てきて、目が合ってしまい顔は熱くなる。

「斎藤大丈夫か?」
後ろから出てきた先輩に大丈夫です、と目を逸らすために答えた。
「伊達はやく、入れ」
「何で小十郎もいるんだよ」
「廊下で人の話を立ち聞きするなど・・・」

教室に伊達君を押し込めて
ーそんな風に小十郎は育てた覚えはありませんが
目以外は笑っている先輩はそう言った。
伊達君・・・乙。


それで、今日最後の教育相談者であった伊達君は予定であった10分間を先輩の説教でそして付け加えられた私の話の10分間で行われることになった。


いよいよ、説教も終わり私の番がやってきた。

「最近どうなの?」
「どうってー何が?」
「勉強とか普段の生活とかのこととかかな?」
「アンタの見ての通りだ、基本的に変わらねぇな」
「そっかー。じゃなんか、聞きたいこととかある?
 例えば・・・勉強法とかさ」

「じゃあ、アンタ伊達輝宗って名前知ってるか?」
「うちの父さんの同級生だっけ?」
輝宗さん、私も父さんと一緒に会いに行ったことがある。でも、あんまり記憶がない。
たしか、社長さんで・・・それを知ったのはつい最近で。

「どうしたの、それが?」
「アンタは生徒と教師の結婚についてどう思う?」
「・・・・・・・はい?
 もしかして、さっきの長曾我部君のやつ?」
「違う?」



「俺とアンタがするかもって話だ you see?」


話が驚くほどについてけない。
ん、伊達君と私が結婚?ないないない、ないって。

「親父同士がしたんだとよ、小せぇ頃に会ったことあるんだとよ・・・ま、俺は覚えてねぇが。
 小十郎が覚えてたぞ」
「そんな冗談誰が」

「政宗様、その話は確率的に半分くらいは実現不可です」
いつの間にか帰ってきた先輩の声が聞こえてきた。
・・・って、え?残りの半分は実現できるの?

「私もう、ついてけません・・・」
なんかもう軽く涙目だった。

「政宗様・・・」
「わかったって小十郎。
 だからな、俺とアンタの親父同士がなかいいんだよ、だからよくあんじゃねぇの?
 もし貰い手が両方いなかったら、子供結婚さえようぜって・・・」
「とりあえずうちの父がすみませんでした」

要するにうちの馬鹿が馬鹿みたいなこと言って伊達君のお父さんに馬鹿みたいなこと約束させたってことだよね?

「すいませんでした、意地でも相手を見つけるので安心してください」
「そう言うなよ、別に俺はアンタが毎晩俺の相手してくれてもいいと思うぜ」
「ー政宗様!」

「は、破廉恥だっ!!」
動揺しすぎて制御できなくなった手は伊達君の頬にクリーンヒットした。

「ご、ごめんなさい」
「名前、気にするな。さっきのは政宗様が悪い」

先輩が伊達君を心配になって見つめてる私の頭を撫でた。
「先輩?」
「あ、すまん。つい・・・ーっ!?」
「へ?」
しまったという顔をしている先輩に聞き返してみると

「お前はちょっと小動物みてぇなんだよ!!」

はっきり大きな声でそんなことを言われてしまった。
あれですか・・・?伊達君平手打ちしちゃったからですか?

「違うんだっ、そうなんだが、いい意味でだっ!」

「伊達君叩いてすいませんでした」
「あ、ああ」

「おい、俺への謝罪の言葉はねぇのか!?」
「・・・・・・あ、ごめんなさい」
「俺はついでかよっ」

ちょっと沈んじゃった伊達君に後ろから声を掛け、頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ごめんね、痛かった?」
「ーっ!い、いや痛くはなかったが・・・もう大丈夫だ」

伊達君はなんかはっきりしない物言いで教室を出て行った。
良かったのかな、教育相談・・・?



「名前、政宗様が悪ぃな・・・」
「いえ、こちらこそ」

後から申し訳なさがやってきた。
「私先生らしくないですね、ほんと」
「そんなことないと思うぞ、少なくても俺は一個人の人間として思う。
 確かに、お前には短所がある。だが、それは人間みんなそうだ。でもな、人間には長所ってもんがあるもんだ、だからそれを頑張ればいいだろ?」

お、おとうさん・・・。
急に先輩がお父さんらしく見えてきた。

「おとー・・・先輩、私も先輩みたいになりたいです!
 でも、生徒になんですかね、先生って見られてるのかわかりません。聞いたと思いますが、長曾我部君とか・・・」
「告白のことか?俺だってされる。
 俺たちはまだ他の教師より若い故だ、気にするな。
 でもな、長曾我部・・・あいつは違う意味で教師として見れねぇんじゃねぇか?」
「え?」
「ま、慣れるしかない」


先輩は私の肩に手をポンと置いて笑った。
この学校で告白されようが関係ないよね。



生徒、教師に恋なんて
創作だけだよ。


所詮その生徒の恋は
ー幻想だ。


それを止めなきゃならないのが
教師の勤め・・・
すなわち
私の仕事。


だから、長曾我部君には謝らないといけないね。









  


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