第三話

いつの間にか6月も過ぎ去り、日ごとに気温は上がっていった。
暑さが苦手な私にとっては憂鬱になる季節だ。そして、そんな私にまたしても苦難を載せていくのは目の前にある解答用紙の山。
一学期の期末考査を終え、私たち教師は生徒が休みの間にひたすら答え合わせをしなければならない。
・・・先生ってらくなもんじゃないね。
学生時代の私は先生って授業してテスト出すだけでって子供にばっか苦難を与えてるだけじゃんーとか言ってました。本当に先生ごめんなさい。
今更ながら大いに反省いたしました。

で、そんなこと言ってる暇もないので無心になってひたすら赤ペンで○や×を入れていく。




そんなこんなでPM8:00。
やっと全ての解答の丸付けが終わった。
生徒がざっと三百人強だから・・・頑張ったんじゃないかな?
本当当時の先生に謝りたくなるね。

隣を見てみると小十郎先輩が溜息をついて仕事が終わったのが分かった。

「先輩、今終わりましたか?」
「ああ、さすがに丸付けからのクラスごとの仕分けは疲れるな」

・・・・・・・・・・・・あぁ!
「仕分け忘れてましたっ」

せっかく終わったと思ったら、仕分けするのを忘れてて急いで解答用紙の山に取り掛かる。私はだいたいルーズな性格なのでクラスごとには積まず、終わった順に一から積み上げていた。しかも、パソコンに成績の打ち込んでいたため、クラスなんか関係なくバラバラだ。


「ったく、お前は昔から仕方ないな・・・ほら、まず机片付けろ。
 そんなところでやったってコーヒーこぼすのがオチだ。俺も手伝ってやるから」
先輩の二回目の溜息を聞きながら私はせっせと片付けて仕分けを始めた。
「すいません、先輩・・・」
「謝るんだったらもと精進しろ」
「うっ・・はーい」

『精進しろ』
昔から何回も言われている言葉だけあって心にグサッと来てしまった。
本当私って変わってないのかな・・・。


結局先輩に手伝ってもらって仕分けも無事に終わった。
「ほら名前、おかわりでも飲め」
先輩はそう言って私のマグにコーヒーのおかわりを注いでくれた。
「ありがとうございます」
「おう」
二人でズズーっと飲んだ。

ただ、少し沈黙が続いてちょっと気まずいなって思ってたら先輩が口を開き、沈黙を打ち切った。
「なぁ、ひとつ頼んでいいか?」
「なんですか?」
「今度、教育相談ってのがあるだろ、それで一人お前に相手してほしい」
「誰ですか?」

「伊達政宗だ」
・・・へ?なんか特に驚くべきこともない人なものだから拍子抜けた。

「いいですけど、どうしてですか?」
「・・・後々から面倒になっても仕方ないから今言っておくぞ。
 俺は政宗様と一緒に住んでる」
「ーっ!」
様付け?普段は生徒を名字で呼び捨てにしているもんだからギャップが有りすぎて私はむせてしまった。

「大丈夫か?
 俺の親父が政宗様の部下で俺は政宗様の世話役でな、ここの高校に来てるのもその為だ。
 それでだ、いっつも俺は勉強してくださいと言ってる訳だが、なかなかしてくださらない。御本人は成績がいいのは言うまでもない、だが、それだと為にはならない。
 たぶん、俺が言っても仕方がないから名前・・・頼めるか?」
・・・苦労していらっしゃるんですね。

「そう言うことなら、私頑張ります!」
「助かるぜ」
「ってもう、何時の間にか9時ですね」
私の腕時計はすでに9時を指していた。
疲れたとか以前にお腹すいた。

「腹減ったか?」
「はい」
「じゃあ、飲まないか?今日は政宗様は友人と一緒に食べるといっているからな」
「はいっ!」
さっきよりも元気な私の返事に先輩はクツクツと笑った。
「行くぞ、ほら電気消せ」
私は急いでデスクライトを消して薄手の上着を羽織って職員室を出た。





先輩と2時間ほど飲み、すでに少し顔が熱い。
お酒が弱いかと言われれば、弱くはないが強くはない。
でも、私はちょっと変でチューハイとかジュースだとでも言っても過言では無いアルコールの度数が低いのは何杯飲んだって大丈夫なくせに、日本酒とかワインとか度数が高いものを少しでも飲めば、ふらふらになってしまう。
今日も日本酒をちょっとだけだけど飲んでしまってすでに気分がナチュラルハイなう。
「あっついよぅー」
すでに呂律が回らないのがわかる。ここまで来たら早く家に帰らないとやばい。

「あれ、先生か?」
ふと聞き覚えのある声がした。
振り向いてみると、見覚えのある銀髪に眼帯で覆われている左目・・・。

「長曾我部く、ん?」
自分でも必死に酔いがばれないようにしようとしたつもりだけど、最後までっていうことはできなくて変な感じになってしまった。
「酔ってんのか?」
「酔ってらいもんっ!」

「・・・酔ってんじゃねぇかよ、ったく大丈夫か?」
顔を覗き込まれながら、呆れたように心配される。

「チカちゃん・・・」
「へ?」
自分でもなんかわからないけど、チカちゃんの面影が重なった。

「なんへ・・・なんへ行っちゃった、の?
 私、ずっと寂しかったのにどうしてぇ・・・」
「先生?俺はー」

「喉乾いた」

長曾我部君に何かを言ってるのは分かるけど残念ながらついていけてない。
酔いから頑張って醒めようと、鞄からペットボトルのお水を出して飲む。でも、なかなか酔った私の手は思うように握れなくて開けれない。
そんな私を見て長曾我部君は私の手からペットボトルを奪い取って開けてくれた。
そのまま私に渡すと思ったら間違いで長曾我部君はお水をぐっと飲んだ。
それで顔が近づいたと思ったら、なんか私の唇にぬくもりが感じられた気がした。そして、いつの間にか水が口の中にあってそれをゴクンッっと飲み込んだ。



「あれ、長曾我部君?どうしたの、こんな時間に?」
「・・・え、酔ったの覚えてねぇのか?」
「んー?」
水を飲んですっきりしたのか私はきれいさっぱり酔った記憶も無い。
「でも、なんかさっきから一緒にいた気がするんだけど・・・違う?」
「そうだけどよぉ・・・」

煮え切らないような態度を取る長曾我部君によくわからないといった顔をする私。
「どうかした?」
「本当に覚えてねぇのか?その、水飲んだこととか」
「飲んだけど・・・。あ、もしかして私変な飲み方した?」
記憶には無いが、人生どんなことが起こるか、起こってしまうかわからないもんだもん。

「なんにもねぇよっ!
 醒めたんならいい、気を付けて帰れよ」
長曾我部君は少し頬を赤らめて走って帰っていった。



私なんかしちゃったのかな・・・?
どうしよ、生徒にへんなことしてたら。それが本当に気がかりで。

どうしようもないから、明日謝ろうと思った。






  


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