第二話

私の朝は頭に鳴り響くほどの目覚ましの音で始まりを告げる。時計の針は5時半を指している。
真っ先にカーテンを開けて、欠伸をしながら日光を光合成でもするんじゃないのと思うほど浴びる。そこから、支度をして6時過ぎには家を出る。
何でそこまで早く出るかというと…
顧問を引き受けた部活の朝練に出なきゃなんないからだ。

「おはようございます」
朝学校の道場の扉を開けて挨拶をしたら3つの声が返ってきた。
「おう、おはよう」
「Good morning, teacher」
「おはようでござる」
「おはよう、先生」
それぞれ、小十郎先輩、伊達君、真田君、猿飛君の声だ。

普通朝練は7時原則としているがうちの剣道部は別だった。
結果を残している分、何と言っても他の部活より融通が利くのだ。剣道部の他の生徒達は7時からとなっているが伊達君と真田君と猿飛君は扱いが違う。
腕前が全国レベルらしく毎朝6時半から練習を始めている。
そんな面子を揃える剣道部に顧問を頼まれた。
以前は先輩だけで顧問をしていたらしいけど、部員が増えていくにつれて手が回らなくなって私に頼んだらしい。
私も元・剣道部だった。
その頃はうちの剣道部は全国まで進み、団体で準優勝私自身では優勝してきたもんだからそこそこ経験はある。

「teacher、俺の相手を頼めるか?」
しばらくトレーニングを見ていた私だったけど伊達君から声を掛けられ、防具を身につけた。
「お手柔らかに頼むね?」
一応経験者とはいえ、体力は昔よりは落ちたので念のため伊達君に声を掛けた。
「ha!俺よりは強ぇだろうに」
…いやいやいや、いろいろ突っ込みたいところだったけどせっかくの朝練の時間を潰しちゃいけないなと思い、向き合った。
「政宗殿…某の相手は……」
ふとそんな真田君の声が聞こえてきた気がして罪悪感を背に相手を務めた。


「ふー、終わった」
朝練が終わったのは8時15分ごろ。それまで通してしてたもんだから汗だくになっている。
タオルと団扇とデオトラントウォーターで涼を取って職員玄関まで来ると靴箱に一通の手紙が入っていた。封を開けてみると名無しの手紙が入っていた。
…もしかして、私苛められちゃうのかな…。そんな不安を胸に手紙を読んでいるとー
”先生に大事な話があります
 放課後、教室に来てください”
…ラブレターかよっ!!
まぁ実際はわかんないけど、こんなべたな文章初めて見るからとりあえず苦笑してしまう。
「…まぁ放課後になったらわかるからいっかー」
そんなこんなで私は楽観的に考え、2年2組の教室へ向かった。


ーそして、朝から約8時間が経った放課後教室にいたら一人の男の子が入ってきた。
「先生、今時間ありますか?」
「あるよ、どうしたのー?」
するとその男の子はありえない一言を私に向けた。

「俺先生のこと好きです」

「………………はい?」
思わず、ポカーンとしてしまった。
「俺本気です」
そうは言うが私は残念ながら状況についていけてない。
え、えっとー告白?そんな感じだよねぇ、雰囲気的に。

「と、とりあえずごめんね?
 っていうか、私先生だからね?」
こんなの返事したこと無いから有り触れたことを言ってみる。

「あきらめませんから」
そう言ってその子は出て行った。
………やばい、最近の子についていけてないよ…。

「はぁー」
無意識に溜息が出た。
ガラガラガラ
「っ!?」
音のした机のほうを振り向いてみると一人の男の子が出てきた。
「長曾我部君…?」
日本人とは思えない目立つ銀髪に、左目を隠した眼帯、長い背丈に精悍な顔立ち…そんな特徴わんさか持っている一人の男の子が私の前に現れた。
どうやら、私が告白をされていた間机の下に隠れていたらしい。

「悪ぃ、まさかこんな場に出くわすとは思わなくてよ。思わず出るにも出れなくて隠れちまった」
「いやいや、ごめんね。こっちこそ、出れなくしちゃって…」
「それにしてもお前さん生徒に告られちまうなんてな。こちとら驚きよ」
「…別にされるなんて思っても見なかった。どっちにしようが生徒だから関係ないよ」
長曾我部君は馬鹿にしているわけでもなく、ただただ私の話を聞いていた。

「それで、長曾我部君は何してたの?」
「あぁ、俺?俺はちょっくら自習ってやつよ」
思わずその言葉に私は目を丸くしてしまった。
悪い人では無いと分かっているけれど、何しろ服装を始とした見た目がちょっとやんちゃな感じなものだから勉強してるのか不思議なものだった。
でも、机のほうを見てみるとちゃんとしているみたい。…そういや、この子頭いいんだっけ?前のテストでは上位10位には入ってた気がする。
「真面目だねー」
私の学生時代を重ねてみると本当に真面目だと思う。何しろ、私は剣道一筋でやってたものだから。
「先生、学生時代剣道ばっかやってたよ。まぁお陰で馬鹿だし色恋沙汰とは無縁だったよ」
「今じゃそんな風に見えねぇけどな…。
 そういや、何で剣道始めたんだ?」
…私が始めた理由…始めたのは小学校に入る前。

「話せばちょっと長くなっちゃうんだけどねー」
そんな前置きを置いて少し昔話をする。
私には昔チカちゃんという女の子の幼馴染の子がいた。
その子がいっつも無防備なもんで私についてくるから危なっかしくて…何を思ったのか私はチカちゃんを私が守らなきゃいけないって思い込んで。
そこから剣道を始めたんだ。
…今思えばだいぶ馬鹿な話だと思う。

「本当馬鹿だよねー」
自嘲気味に笑ってると長曾我部君は首を振って私の頭を撫でた。
「え!?」
私が驚いた反応をしていると少し笑った。
「きっとそいつは前よりも強くなってるぜ、お前さんを守れるぐれぇにな…。
 まぁ守ろうとしたことは立派だと思うし、感謝してると思う」
「どういう意味?」
言っている意味が分からずに首を傾げた。
「今は言えねぇな…そのうちわかんじゃねぇかな?
 先生なんだからちょっとは考えてみろよ」
長曾我部君はそう言って意味有りげにくすっと笑い、一言私に告げた。

「”チカちゃん”ってのは意外とお前さんの近くにいるもんだぜ。
 じゃぁなセンセ」

「……へ!?いるのっ!?」
しばらく思考がストップしてしまい、聞き返そうとしたころにはもう長曾我部君は教室を出ていた。


その夜、長曾我部君が残した一言について考えていた。
ー”チカちゃん”ってのは以外にお前さんの近くにいるもんだぜ
確かに、彼はこう言った。
しかし、うちの学校に、2年生の学年の中にチカという生徒はいない。
もしかしたら、私が渾名として”チカちゃん”と呼んでいたのかもしれない。
チカ…確かお父さんの名前は国親さん。だからチカの前に何か付いていたかもしれない。…なんだっけ?
…ん?長曾我部っていう名字だっけ?たしかそう。珍しい名前だねぇって昔言ったことを覚えている。
父親同士が昔から仲がいいみたいだからなんとなく国親さんも覚えてる。
一人娘なんだったけ?
すごくかわいい女の子。
うぅ〜、分かんないよ…。長曾我部君は話してくれそうにも無かったしね。きっと自分で探さないといけない。

チカちゃんどんな子に育ったのかな?昔からかわいいから今はきっと美人になってるんだろうね。
それで、きっと恋とかもして私の代わりに守ってもらえる人と一緒にいたりするんだろうね。なんだか、淋しいような嬉しいような…。
私が勝手に想像してるだけだけど美形になってるのは確かだね、親子そろって美形だったし。
また会えたらいいんだけど。意外に近くにいるって言ってたのが本当だったら、もしかして知らないうちにもう会ったのかも。

「チカちゃん、会いたいなー」
そんなことを思いながら私は眠気に誘われ眠りに付いた。


  


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