第二十七話

”全部思い出した”


チカちゃん、もとい長曾我部君は確かにそう言った。


「私のこともわかる?」
「ああ。
 俺の愛しい女だ」
「・・・ごめんね、私はなかなかチカちゃんだって気付けなくて。
 きっと長曾我部君を傷つけてたよね」
「いや、思い出してくれたんだろ?」


それだけで俺は今すっげぇ幸せだ、大げさな言葉に眩しい笑顔が込められていて私も思わずそれに釣られて顔が緩む。


「約束が叶って良かったよ」

数十年前に交わされた約束。
私がこの街に戻ってきて一年目、チカちゃんが戻ってきて3年目にして・・・
別れてから12年の歳月を経て、ついに約束が叶った。

「ちゃんと覚えててくれたんだな・・・」
「待ってたんだよ、チカちゃんが帰ってくるのを私は?」
「悪ぃ・・・でも、お前さんだって大学行ってどっかへ行っちまったんだろうが」
「まあ、そうなんだけどね」
「ほらな、ははっ」
「ほんとだねっ、」

チカちゃんとまた笑い合える日が来るとは正直思ってなかった。
また会いたいな、とは思って信じて待ってるだけだった。
笑いながらも嬉しくて、少し下を向けば涙が零れ落ちそうだった。


「約束と言えば、俺が事故に会う前の日もしたんだが・・・今その話をするな?」
「う、うん・・・」
「俺そん時に俺がチカちゃんだってことを言おうと思ってたんだ。
 ま、今となってはカミングアウトしたって意味は無くなっちまったんだがな。
 ・・・それよりも、大事な話があった」

さっきまで互いに笑い合ってたとは思えないほどに私たちの間には静かな空気が流れた。
チカちゃんも真直ぐに私を見るし、下手に目を逸らすこともできない。

「俺はお前さんが・・・好きだ」

私は今もしかしたら困った顔をしているのかもしれない。
実際に内心困ってる。
でも、嬉しくて・・・。
気持ちの整理がつかずに、溜まった涙がボロボロと毀れた。

「嫌か?」
「ううん、嫌な訳ないっ・・・でも、今どう答えたらいいのか、わかんないっ、」
「お前さんは俺のことどう思ってる?」
「チカちゃんのこと、好きだよ、好きで仕方なくて・・・嬉しいよ、今凄く」
「ったく、俺のお姫様はいつの間にか泣き虫になっちまったみたいだなぁ」

苦笑しながらも、私の髪をくしゃくしゃと撫でる。

「昔チカちゃんだって泣き虫だったもん」
「な、ま、まあ・・・昔の話だ、それは。
 今はお前さんの涙拭えるぐれぇの男には成長したつもりよ?」
「そ、だね?
 ほんとに大きくなったね・・・。
 私ひとりでいっつもドキドキさせられて何か嫌・・・」
「え、俺がどんだけ恥ずかしい気持ちを我慢したことかわかんねぇか?」
「チカちゃん・・・」
「どうした?」
「・・・私やっぱり男の人として好きだって思っちゃうよ、おかしいかな?」

恥ずかしさを抑えながら今の気持ちを白状すると、チカちゃんは慈しむように私を見て笑った。

「おかしくなんてねぇ。俺だってずっと同じ気持ちだった。
 ・・・せめて好きな男にちゃん付けはやめろよな?ほら、元親って呼んでみろ」
「え、今?」
「おう!」

初めて呼ぶ名前。
長曾我部君でも、チカちゃんでもなくて。

そこにいる、彼は元親だと。

「元親・・・」
「名前、好きだ」
「ん、私も好きだよ」

奪うように私の唇を塞ぎ、薄く開いた口からチカちゃんの舌が入ってきた。
その舌は、私の舌を絡めるなりチュッと吸った。

「んんっ、ちかぁ」
「っ、名前、好きだ。お前さんが好きだ・・・」

唇が軽く離れると二人の間に惜しむかのように、銀の糸が連なった。


「名前、俺の女になっちゃくれねぇか?」
「え、チカちゃん・・・」
「だから、元親だっての」
「うん、元親。私今は教師だよ?」
「お前さんがいいって言わない限りは学校ではなるべく手は出さねぇよ?」
「いや、いいって言う可能性とかほとんどないよ?」
「俺は今が無理だって言われても待っててもいい。
 お前さんが俺を選んでくれるなら、絶対に幸せにする」

なんだか、改めて告白されると照れてしまう。
しかも、何だか最後の言葉はプロポーズみたいで私はちょっと黙り込んでしまった。

「どうした?」
「ん?いや・・・何かプロポーズみたいだなって思っちゃった」
「・・・・・・・・・」

あ、黙ったよ。
怒っちゃったかな・・・?

「元親さーん?」
「・・・・・・・・・・・」

さっきよりも、長い沈黙が続く。

「ご、ごめん。怒らしちゃってたらごめん・・・」
「んな訳ねぇだろうが!」
「うん、わかってる・・・ちょっと私が舞い上がりすぎたよ。
 そうだよね、普通そんなこと言っちゃ駄目ー」

”駄目だよね?”
そう言おうとしたら、不意に抱きしめられた。

「違うって。だから!もう俺は知らねぇぞ、お前さんが言わしたんだからな!?
 ・・・・・・名前、俺と結婚してくれ!!」
「・・・・・・・・・・え?」
「幸せにすることを誓うから」
「でも、4歳も離れてるんだよ?」
「たかが4歳だ。お前さんにはそんな俺がお子様に映ってんのか?」

・・・そんな訳がない。
初めて押し倒された日には本気で年上みたいに感じてしまった。
逆に、私がこんな幼稚でいいのかっていう・・・。


「そのままのお前さんが好きなんだ」
「元親、私も元親に貰ってほしいよ・・・」
「ああ、何があっても掻っ攫ってやる。
 名前、お前さんが俺の嫁だ」
「うんっ・・・・・・」

私は元親の首に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。
それによってか、元親の腕にも力が入り暖かかった。



「名前、愛してる」

私の耳元で溶けた甘い声と、同時に感じた唇の感触はずっと忘れる事は無いだろう。


絶対に忘れはしない。




愛しい年下の君へー、

私はこんなにもあなたが好きになってしまったよ?

これからの人生も私を愛してください。

一生の愛を私だけに誓ってください。


『大好き』

この言葉はきっと伝わってるって信じてるから、私は口には出さないよ?
私はただあなたの甘く優しい声で言った言葉を信じているから。




夜空には月だけが明るく照っていた。







(終)












  


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