第二十五話

松永の件も一段落し、長曾我部君と私が帰ってきたのは午後1:00。
すでに、お昼のピークが過ぎたころで帰ってきてからは皆でのんびりと営業をやっていた。



そのまま、いつの間にか文化祭終了を知らせるチャイムが鳴った。

そして、二日間に渡る文化祭がとうとう幕を閉じた。
ちなみに、結果的にはランクインし、総合2位の成績を修めた私たちだった。


終わってから、片づけを進めていると伊達君が私の元へ来た。

「honey・・・片付け終わって後夜祭が始まる前に、すぐに道場へ来てくれ。
 覚えてるよな、約束は」
「うん、わかったけど・・・わざわざ武道場で?」
「ああ」

用件を伝えるだけが目的だったのか、伊達君は早々に何処かへ消えた。
それだったら、手伝ってって言おうともできたのに。
ま、そんなことも言ってられず、他の生徒達とわいわいと片付けた。


いよいよ、教室が元の姿に戻ると寂しいもんだ・・・。
いつもの教室に2日ぶりに戻った訳であって、なんだか短く感じた文化祭だった。

教師としても、楽しめたから満足でもある。

ま、その他で問題はあったけど。
唇を奪われ、馬乗りになられ・・・。

まだ、馬乗りはいい。あれは、喧嘩してた訳だから。
でも、唇は奪われたくなかったと今でも凄く思う。

別に、他の時でもそうだけど・・・長曾我部君の前では嫌だった。
彼女ができたのも知ってるし、私が諦めないといけないこともわかってる。

別に私の唇がどうなったて、長曾我部君には何にも・・・何にも感じないことだってわかってる。

・・・でも、今日助けに来てくれたのが嬉しくて、
女だろ、って前にも言われたようなことを言ってくれて、

凄く嬉しかった。

頭ではわかってるつもりなのに、私の恋心は何時まで経っても大人にはなってくれないらしい。
また、面倒臭いものだよ・・・。


「せんせー、鬼の旦那が寝てるんだけどどうしたらいいー?」

・・・噂をすれば、長曾我部君のことだ。

「先生がなんとかするから、早く後夜祭行ってきなさいね」
『はーい』

素直に私の言葉に従う生徒達はドアに向かって足を進めていく。
反対に私は窓辺で眠ってる長曾我部君の方へ足を進めていく。

「長曾我部くーん?」
声を掛けても起きない。
更に、頬を突いてみるけどちょっと可愛らしい声が聞こえてくるだけ。

今長曾我部君と私以外は誰もいない。
・・・ということは、さっきのは私の特権だったって訳だね。

「・・・チカちゃん、ごめんね・・・・・・」

私は誰もいないことを確認して長曾我部君の唇にそっと唇を押し当てた。

「本当は気にしてるんだよ?
 学校に着いたからって私振り切れなかったよ・・・
 あなただけには見られたくなかったよ、守ってくれるって言ったくせに・・・」

独り言のように長曾我部君に話していると、長曾我部君の彼女である女子生徒が教室へ入ってきた。

「あれ、先生?
 ・・・もう、まだ元親起きてないじゃん」
「うん、なかなか起きないみたいなの。
 あと頼めるかな?」
「うん、任せといて!」


冷静な自分を装って教室から出た訳だけど・・・
焦ったー!!
え、さっきの聞かれてなかったよね?
あの反応からは大丈夫そうだったけど、うわー。
焦った・・・。
今でも心臓バクバクしてるのがわかる。

「さーて、後夜祭・・・っ!?」

後夜祭行こうとしたけど、ふと伊達君のことを思い出した。
・・・正直忘れてた。

急いで、伊達君いる武道場へ向かった。


「ごめん、伊達君!」
「遅かったな・・・honey」

道場へ入ると、今日の接客の服装のままの伊達君がひとり。
ちなみに、私も着替える暇がなくてメイド服のままだ。

「それで、話って?」
「今から俺と一本勝負してくれ」
「へ、一本勝負?
 ただの一本勝負のためにわざわざ?」
「一本勝負だが、ただの一本勝負じゃねぇ。
 俺が勝ったら俺の女になれ」
「え?」

伊達君は冗談を言ってるような顔をしているわけでもなく、普通に真顔だ。
言葉に乱れはないし、本気で言っているんだろう。

「それで、私が勝ったら?」
「俺ができることなら何でもするつもりだ」
「そか・・・。
 勝負をする、理由がわからないんだけど?」
「・・・悪ぃが、アンタを今の元親に簡単に渡したくない」
「私は簡単には渡らないし、向こうも私を取る気なんてないんだよ?」
「いや、元親は最近薄々戻ってきてる。
 記憶は戻ってもねぇが、行動自体には戻ってきてる。それはアンタにもわかるだろう」
「・・・・・・要するに勝てば、伊達君の女にならなくてもいいんでしょ?
 私が勝ったら、ひとつ物を貰ってもらうね」
「all right!」

正直、この勝負負けるわけにはいかない。
長曾我部君のこと以前に、私の教師人生の死亡フラグが立ってるからだ。

「悪いけど、条件が条件なだけに手加減はできないよ」
「こっちもそのつもりだ、行くぜ my honey」

いやだから私はあなたのものになってませんから・・・、そんな言いたいことも抑えて私に向かってきた竹刀を受け止める。

「っ!?
 あれ、伊達君成長したね」
「一発でわかるのか?」
「うん、今まで見てきたからね」

もともと伊達君は竹刀を振るって狙う位置が正確で、その上速い。
だから、スピードで勝負に出てくるタイプだ。

でも、久々に手合せして一振りが重くなってるのがわかった。
これは、長曾我部君も同じだ。
長曾我部君は少しスピード性には欠けるけど一振り一振りが重く正確な人だ。

その長曾我部君がきっと夏休み中に伊達君を鍛えたんだろう。

ただし、それを組み合わせて見ても欠点は少し出る。

「重くなるのもいいけど、遅くなったよ?」
「っ、何!?」

私は竹刀を伊達君の首で止めた。

「・・・わかるよね、もう。
 私の勝ちだよ?
 今当ててないのは痛いからだけ、私はそれだけの理由で止まってるから」
「・・・・・・・・・ok、俺の負けだ。
 で、何を貰えばいい?」
「うん、ありがとね」

鞄をごそごそと探っていると、私の手に柔らかい感触が当たった。

「これ、お願い」
「これは・・・犬のストラップなのか?」
「うん。とりあえず本当は長曾我部君のなんだけど、これを持つ勇気もなかったから」
「どういうことだ?」
「うん、と・・・。どういったらいいのかな?
 私は長曾我部君と幼馴染でね、このストラップ昔貰ったの。でも、伊達君のお望み通りかわからないけど私は長曾我部君に恋なんかしないから。
 でも、捨てれないし、持ってられないし・・・だから、貰って。この後はどうしてもいいから」
「それだけでいいのか?」
「うん・・・じゃあ、私もう行くね?」
「待ってくれ、今から少し奥にいて待っててくれ」
「え?」

用事は終わったといっても、まだ何かあるらしい。

「でも、もう後夜祭も始まるよ?」
「それでもだ、頼む・・・」

何か真剣だし。

「わかった、奥で待っとく」
「Thank you、でもちゃんと見といてくれよ」


何をなんて聞けなかった。
私が奥に言ったとたんに、道場に長曾我部君が入ってきたから。


「政宗、待たせたな」
「・・・元親、今から一本勝負をするか」


何、この展開?
何もわからない私であった。







  


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