第二十四話

先生がかすがを迎えに行って、しばらくしてかすががようやく来た。

「かすが、大丈夫だったのか?」

正直顔は汚れていて、腕にも痛々しい傷が見える。
が、本人は意外と大丈夫そうだ。

「私は大丈夫だ、だが先生が・・・」
「おい、まだ帰ってねぇのか?」
「今松永と一対一だ、私だけが帰された・・・くそっ」

先生があの松永とタイマン張ってるだと・・・?
松永って、聞き覚えはある、っていうか、一度喧嘩したことだってある。

印象はいつも女をはべらかしていて、喧嘩のやり口は卑怯な奴だ。
・・・・・・そんな奴といる、そんなの許せるか!


「おい、長曾我部何処へ行くっ!?」
「決まってるだろ、松永んとこだ!場所は何処だ?」
「私立の体育館だ、でもお前だけでー」
「知ってんだろ、俺は鬼だ。簡単にやられてやるつもりはねぇ。
 かすが、しばらく頼む」
「おい!」

何か後ろで言いたげにしてるが、俺は待つことができなかった。
気持ちに余裕を持てねぇ。


ただただ、先生の元へ駆けた。


しばらく、走ってようやく体育館に着いた。
此処まで掛かった時間は数にしたらほんの少しかもしれねぇが、それでも心配になっちまう。

「先生!」

体育館の重い鉄の扉を勢いよく開けた俺の目に飛び込んできた光景は何とも俺を不快にさせるものだった。

腕を松永に掴まれ、身動き取れずにいる先生。
先生に馬乗りになる松永。
そして・・・−血が飛び散った、割れた竹刀。


「松永ぁっ、よくも・・・」
「おや、卿とは会ったことは会ったかな?」
「俺を覚えてねぇってか」
「いやはや、価値の無いものはすぐに忘れてしまうものでね」
「くそっ、とにかくそこ退きやがれ!」

俺は二人の元へ走って先生の無事を確認した訳だが、松永はいつも通り気に入らねぇ。
松永は先生から降りるなり、俺の方を向いた。

「卿がこの女の想い人か?
 ・・・王子様がシンデレラを助けに来たというところかな、くっくっく。
 では、少し二人で話の時間でも設けようか」

先生を起こすなり、俺は頬を叩かれた。

「長曾我部君、何で来たのっ?」
「何でって、心配に決まってるからだろうが」
「心配ってー・・・あなた、実行委員なのに。
 皆は大丈夫なの、かすがちゃんはちゃんと戻れた?」
「かすがも、他も奴らも今店をやってくれてる。
 ・・・先生、もっと自分の心配しろよ。俺が来なかったらどうするつもりだったんだ」
「・・・・・・・・・でも、私のせいだから。私が悪いのに・・・」
「だからかっ!?もっと、女っていう自覚を持てって俺は言ったと思うが?」
「え、記憶がー」
「思い出した訳ではねぇが・・・
 俺はそう、言ったろ?もっと頼れよ」


少しだけ、確信した記憶の一部。
きっと俺の中でのこの人は大きい存在だったんだろう。


「おい、松永!
 シンデレラをこの鬼が攫いに来てやったぜ?」
「くっく、そうか。では、私を楽しませてくれるかな?
 そこの女鬼よりも私を楽しませてくれることを願っているよ」

先生の竹刀を借りるなり、無我夢中で松永目掛けて竹刀を大きく振った。
それが、もろに当たることは無かったが少なくとも掠めた。
そのおかげか、松永は少しだけ顔を歪ませた。

「はっ、たあ!」
「ぐっ」
「こんなもんか?所詮はアンタもお山の大将ってところか?」
「・・・くっく、そうだな・・・私ももう駄目だ様だ。
 卿には絶望を贈ろう」
「ああん、気にくわねぇな、アンタは」


何をするかと思いきや、松永は後ろを向き、そのまま真直ぐ歩いた。
何だぁ・・・?

先生の前で跪くや、顔を近づけさせ唇を奪った。

「っん!?」
「な、何しやがる!?」
「くっくっく、どうかな、お気に召したかな?」

よくも・・・。

「おりやぁっ!消えちまいな!!」

俺を馬鹿にするように笑う松永に力全てを掛けて、竹刀を振り下ろした。
その瞬間に、松永は倒れた。


「先生っ!大丈夫か!?」
「ちょ、長曾我部君・・・・・・」

先生は唇を抑えるなり、あわあわとしている。
そりゃそうか。

「大丈夫な訳がねぇよな・・・。
 ごめんな、俺守ってやれなくて」
「う、ううん!私守られたから!
 だから、早く帰ろうよ、ね?」
「お、おう・・・」


心配掛けまいと、無理して立ち上がるその姿を俺は見れなかった。
それでも、先生は唇を拭い、服装を整え俺の腕を掴んだ。

「さっきは叩いてごめんね?
 早く帰ろっ」
「おう」

しばらく走っていた訳だが、先生は無表情では無かったが、人間性を感じられなかった。
笑っているのに目だけは笑っていなくて、前をちゃんと向いているのかさえわからない。
たぶん、泣きたくはないんだろう。
松永に唇を奪われたって、教師だからなのか・・・それとも、ただ単純に心配を掛けたくないのかわからないが、泣きたくはないんだろう。

俺がいながらも、あんな思いをさせてしまって申し訳ない。
申し訳ない以前に守りきれなかった俺自身に腹が立つ。




「ほら、いつまでもそんなしょげた顔をしてっと接客もできねぇだろうが」
「え?」

今言ったの先生だよな?
いつも口調ていねいなのに、今言ったのは・・・

「私が女鬼って言われてた時期は本当口調悪かったなー・・・
 当時は喧嘩売られては片っ端から買って逆恨みなんかもあったから、今回はあれだけで済んで良かったと思うよ。
 ありがとね、長曾我部君っ。
 私はもう、大丈夫だからさ・・・女鬼だったってことは御内密にね?」

俺の口に人差し指を置いた先生。
そんなこと不意打ちでされたもんだから、照れちまった。

「もう、学校に着いたから私は引きずらないよ?
 だから、長曾我部君もね?」

いつもの笑顔とはいかなかったが、笑った先生がいた。
少しほっとした俺自身もそこにはいた。


「よし、休んでたぶんしっかり働かないとね?」
「おう!」












  


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