第二十三話

次の日も教室へ入った途端に皆の士気を感じた。

「おう、先生!黒字だって言った瞬間にクラスの士気はこの調子だぜ」
「そっかー、すごいね」

上がり方にちょっと言いたいこともあったりするけど、学生だもんね。
仕方ない。

「この調子でいったらランク入るんじゃないかな?」
「ただな・・・かすががまだ来てねぇんだ」
「え、かすがちゃんが?風邪?」
「いんや、連絡が来ねぇんだよな・・・」

働きすぎて寝坊しちゃったとか・・・?
あの子に限ってそんなことは無いはずだし。
何かあったんじゃ・・・−


「先生、大変だ。
 かすがの携帯から俺様宛にメールが来たんだけど、まずいことになっちゃってるよ」

携帯が鳴るなり、冷静に私に報告する猿飛君に騒ぐ周りの子たち。

「それで、どうしたの?」
「昨日の人たちに捕えられちゃったみたいでね、捕まってるよ。
 ただ、ここに”昨日の女を連れてこい”って書いてあるんだけど・・・」

昨日の女・・・おそらく私だろう。

「私行ってくるから。長曾我部君、ここの監督を任せるね、いざとなったら片倉先生に言って。
 皆、私がかすがちゃんを連れて帰ってくるからそれまで頑張るんだよ?」
「おい!お前さん一人で行かせられるか、っていうか、行くな!」
「でも、私のせいなんだよ?」
「先生、鬼の旦那の言うとおりだ。かすがが捕られえてるんだ、簡単にいくはずがない」
「大丈夫!命に代えても私がかすがちゃんを守りきる。
 また連絡するからー」
「ちょっ、待てって!」


後ろから心配そうな声が聞こえるけど、私は構わず走り出す。
走りながら、猿飛君の携帯を弄って、かすがちゃんの携帯に電話を掛ける。

『誰だね?』
「昨日の女だけど、女の子は無事でしょうね?」
『卿が一人で来たなら無事だけどな、その代わり卿がかな、くっく』
「私を殺す気でもいるの?それだと、犯罪になっちゃうけど?」
『女に殺す価値は無い。あくまでも我々はフェミニストなもんでね、可愛がってみせようか』
「で、何処にいるの?」
『我々の学校は知っているだろう、体育館はわかるかな?』
「今すぐに行く」

人を見下げたような口調の男の声にイライラとしながらも、携帯を切った。
あと、2,3分で着くから・・・かすがちゃん、どうか無事でいて。


そのまま、走ってやっと体育館前に着いた。

「かすがちゃん!」

私の声が響き渡るが真っ暗だ。
あれ・・・?
そう、思ったとたんに電気が一斉についた。

同時に、ステージの電気もついてかすがちゃんがいるのが見えた。

「お疲れ様、とでもいうべきかな?
 では、彼女は解放しよう」

舞台のステージに立っているここの制服を着た、白髪と黒髪を持つ男子が軽く拍手をしながら下りてきた。

「意外にあっさり返してくれるんですね、ありがとうございます」
「卿もいい女だ。
 ただし、二人とも十分に我々を楽しませてもらってからになるかな」
「どういう?」

走ってかすがちゃんのもとへ駆け寄ろうとしたが、目の前の男子が手を叩くことで周りに複数・・・ざっと、30人くらいの男が群がった。

「では、私は奥で待っているから。
 思う存分に啼いてくれとでも言ったらいいかー・・・卿の好きに」

そう言ってその男子はどこかへ消えた。

「へっ、メイドちゃんを食えるとはな・・・着物の姉ちゃんも色っぽいが、俺はこっちでも好きだね」
「は?」

要するに、私たち襲われるってことだよね?

「かすがちゃん、自分の身を守れるかな?」
「私は今は大丈夫だが、数が数だ。何とも・・・」
「そっか、じゃあこっちへおいで。私が守ってあげるから」
「綺麗な友情を見せてくれるとはな、でももう遅い」
「かすがちゃん早く!」

すでに何人かはかすがちゃんの方へ向かっている。
このままだらだらと待っていれば、相手の思う壺だ。
とにかくかすがちゃんの無事は確保は絶対で、壁を背に私の後ろへ付かせた。


「どうしよ、逃げれないから・・・。
 目を瞑っといてくれるかな?」
「先生、大丈夫なのか?」
「うん、30人くらいなら大丈夫。私の上着でも来ておいて」

私は動きやすいよう、上着を脱いだがそうしたらメイド姿ということで・・・正直凄く恥ずかしい。

「ちょっと時間かかるけど、この子はあなたたちには触れさせませんからっ!
 痛い目見たくなければ、今すぐに生徒証でも置いてどこかへ行ってください」
「生徒証だぁ?何言ってやがる?」
「”女鬼”は更生して学校の教師になったんですよ」

一応、最後の手段として声を掛けるが一斉に掛かってくる勢いだ。
もう、止められないのだから仕方がない。

「早くかかってきてください、そうしたら私も正当防衛が成り立ちますから・・・」
呆れたように声を掛けると、とうとう挑発に乗ってくれたらしい。
「このアマ・・・調子に乗りやがってー」

何個かの拳が一気に飛んできた。
これくらいだったら、避けれるか。

私はそれらを避けるなり、持って来た竹刀で叩きのめす。

『ぐあぁ』

何人かの洩らす声は聴こえるが、これだけじゃ意識は失わない。
こういう人たちは、一気に打ちのめさないと何回もやってくる。

「もう面倒臭いから一斉にきやがれっ」

「おりゃぁぁ」
「この、嘗めやがってー」

無駄に強い力で飛んでくるが、避ければそれだけで相手の体力が減ってくれるので結構簡単なもんだ。

「喧嘩も知らねぇ奴らが無駄にきやがって、なめんなよ?
 こっちがだまってりゃきゃんきゃん吠えやがって、うっせぇよ」

竹刀を振るうたびに、立ち上がってくる人数は減っていった。
その内に、私の持っていた竹刀が少し割れてしまったらしい。

「割れた竹刀・・・おまっ、女鬼?」
「・・・・・・よくわかったもんだな、もう十年も前にもならねぇが、そうだな。
 私は確かに女鬼と呼ばれてたな、女鬼とは皮肉なものだったが。
 どうだ、最後まで女鬼にやられてぇか?」


ー鬼のように強い女だから、”女鬼”。
あの頃、不良となった私の渾名が今にまで残るとは思ってなかったけど。

「すいやせんしたぁぁっ、うちの兄貴もすいませんっしたーー」
「・・・・・・」

どうやら、知らないうちにこの子のお兄ちゃんまで殴ってたんだね、私は。
申し訳なかったりもする。

「で、行ったわけだけど・・・。かすがちゃん、もう大丈夫だよ」

目を開いたかすがちゃんは、さっそく目を丸くしていた。

「先生、女鬼だったのか?」
「うん・・・知ってたんだね、できたら御内密にねっ」
「ああ。それにしても、うちの学校は凄いな、鬼が男女とも揃ってるもんだから」
「え?」
「長曾我部も”西海の鬼”と呼ばれていてな、中学時代は凄かったんだそうだ。
 先生も中学時代だろ?
 で、伝説の鬼と呼ばれる上に、その名は二人とも高校では聞こえなくなったもんだから結構有名な話なんだよ、鬼の不良は」

え、私意外に有名人だったりしたんだ・・・。
なんか、驚きもんだわ。
それにしても、長曾我部君・・・もとい、チカちゃん。
あんなに可愛かったのに何を何処で間違えた!
そのことの方がショックだわ。


そんなことをのんきに考えていると後ろからぱちぱちと手を叩く音が聞こえてきた。

「卿が女鬼だったとはー・・・私も正直驚いた。
 女鬼・・・初めて存在を知ったときは恐れたものだが、こんなにいい女になっているとはー。
 卿が気に入ってしまったよ、私の妾みなるつもりはないかな?」
「誰が、おめぇみたいな・・・」
「おや、どうやら卿にはもう意中の相手がいるようだ・・・それは残念。
 だが、帰すつもりはない。私の腕の中で眠るか、その娘もろとも冷たい床で眠るか、選びたまえ」
「私は帰るし、この子と帰るっ」
「戦うことを選んぶか、なら卿に限って特別にその子は帰してもいい」
「かすがちゃん、今すぐ帰りなさい」
「でも、−」
「いいから帰りなさい、もしも私が終わるまでに帰ってこなければあきらめなさい」

私はかすがちゃんの背を押して、帰らした。

「先生、待ってろ。すぐに助けを取ってくるから」
・・・ほんと、優しい子だ。

「で、おめぇだけで私の相手をすんのか」
「そうだ、卿の相手はこの松永久秀がしよう、好きに呼んでもらっても構わない」
「・・・松永、か」


どうか、すぐに戻れますように。
そう、祈って私は竹刀を振るった。



  


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