第二十二話

長曾我部君に唇を奪われ、もやもやしたまま文化祭当日を迎えた。

朝から教室は盛り上がってる。
一回文化祭を経験した皆でもすごく楽しみにしてるぐらいだから、久々に戻ってきた私なんか尚更だ。

もう今日は何も考えずに文化祭を純粋に楽しもうと決めた。



教室で、HRが終わった途端に着替えが回され始めた。
そして、先輩にも衣装が回った。

・・・そっか、教師と生徒で一丸になってやるのがうちの学校の文化祭のもっとーだもんね。

そんなことをのんきに考えてたら、私にも衣装が回ってきた。
わざわざ持ってきてくれたかすがちゃんの肩を掴んだ。

「どういうことかな、かすがちゃん?」
「先生・・・学校の方針だ、クラスの為にも頑張ってくれ」
「でも、私いい歳ー」
「皆ー、先生若いよな?」
『うんっ!』

たくさんの女子の声に、頷く男子。
・・・要するに、あきらめろと。
めっちゃいい笑顔で言われたし、断れないよ・・・。

仕方ない。

「わかった、着るよ・・・だから、絶対に売り上げ部門ランク入らなきゃこのクラスだけ課題増やしてやるから!!」
『おおおぉぉっ!!!』

皆”課題”に反応したのか、掛け声はいい感じだった。
でも、このクラスは何だかランク入る気がしてきたよ。





それから、クラス全員が着替えて開店時間を待った。

ちなみに、私の服は定番のメイド服だった。
スカート短いし、絶対領域出されるし、なんか肌蹴てる気もするし・・・ちょっと複雑だったけど、長袖の分まだましだった。

一番格好がすごいと思ったのはやっぱりかすがちゃん。
スタイルいいもんね。
着物スタイルなのにすらりとした生足がめっちゃ見えてて色っぽい。
ちなみに、今回厨房に回るらしいんだけどそのせいなのかわからないけど、肌蹴具合が凄い。
誰得ー?
考えてみれば、一緒に厨房担当してる猿飛君だよね?
作った方も凄いけど、そういうとこちゃんと考えてる訳ですね・・・。




キーンコーンカーンコーン



いつもなら、授業開始を知らせるチャイムが今日は開店時間を知らせた。

「皆、ぜってぇーランク入るぞーー!!」
『おう!!』

一丸となって円陣を組んだ後にお客さんが一斉に入ってきた。
どうやら、宣伝組も凄いらしい。

私も生徒に交じって働くけど、止まる暇がない。
ま、止まって教師だってばれることよりはましなんだけどさ。
でも、知ってる人にこんなところを見られたらー


「・・・・・・・・・っ、おばさんっ!?」



さっそく長曾我部君のお母さんに再会。
そうだよね、自分の子供のクラスは普通行くよね・・・。

「名前ちゃん、可愛い格好しちゃってー、チカちゃん大喜びしてるんじゃないかしらねー」
「い、いえいえ。もうあの子には彼女もいるんですよ?」
「え、そうだったの?」

意外そうな反応をする、おばさん。
息子に彼女がいるって知ってるお母さんは少ないとは思うけどね・・・。

「あ、私接客しないといけないんですね・・・。
 奥様、こちらへどうぞ」
「ありがとね、ご丁寧に・・・」

その後も引き続き、服についておばさんにからかわれたのは言うまでもない。

しばらくして、やっと私にも休憩時間が入った。



「おい、お前さっさと作れ!」
「でも、かすがー、俺様接客のリクエストが出ちゃってるんだけど・・・」
「じゃあ瞬間に作ってでればいいだろう」
「んな、無茶な・・・」

ふと、厨房がある奥から聴こえてきたそんな会話。
もめてるんだろうと思って覗いてみると案の定もめているみたいだった。

「どうしたの、二人とも?」
「いや、俺様がでなきゃなんないんだけど、もう厨房の方も人手が足んなくて」
「だから、猿飛!そう言ってる間に作れと・・・」
「だったら、私が二人の分代わるよ」

『え?』

「でも、ここに注文が集中するわけだしやっかいだし・・・」
「大丈夫!二人とも大変だったでしょ?
 私は休憩時間だから今出なくてもいいの」
「でも、私たちだって休憩時間はー」
「じゃあ二人とも接客してきてよ!
 かすがちゃんも可愛く着飾ってるんだし、上杉先生もここに来るって言ってたんだよ?」
「け、謙信様がぁ!?」

おお、乙女な反応。
かすがちゃんが隣のクラスの上杉先生に恋をしているのは有名な話で、私から来てくれるようには言っておいてけど、かすがちゃんのいい方向に行ってるみたい。
よかった、よかった。

「じゃあ行っておいで、ほら」
「で、でもここは大変だぞ?」

背を押しているのにも関わらず、心配そうに私を見るかすがちゃん。

「大丈夫だって、私人目に出るのとか得意じゃないから!」
「でもー」

「じゃあ俺が手伝ってやる!」

「長曾我部君?」
「俺は今から休憩入ったからな、先生と一緒にやればお前らがやってた時と同じ二人大勢だ、な?」
「でも、今休憩入ったんじゃー」
「心配すんな!行って来い、二人とも」

改めて背を押される二人。
ようやく、納得して教室へ出てくれた。

「ごめんね、手伝わしちゃって・・・」
「俺は実行委員でもあるからな?
 人以上に働かねぇと」
「ありがとう」


ここからが正直大変だった。
注文の内容は違うし、量も多いわで・・・。
正直一人でやってたらどうなることか。

長曾我部君は意外に器用で、てきぱきと作っては出しを繰りかえしていた。
私も、頑張るけど、なかなかお客は減らない。
それはいいことなんだけど、大変だった。

お昼のピークが過ぎたころだった。


『だから、やめろといっているだろうが!!』

接客に出たかすがちゃんの怒鳴り声が聞こえた。
何事かと思って出たところ、二人組の男子に絡まれていた。
よく見ると、近くの私立の制服で、見るからに不良っぽい。

慌てて私が飛び出すと、不良の機嫌が更に良くなったように感じる。

「なんだぁ?嬢ちゃんが俺らと遊んでくれるのかー」
「おい、この子メイドだぜ?」
「おお、お持ち帰りしたいな」

うわー、何この人ら・・・。
イライラするけど、声を抑えて笑顔で、冷静なりながらに話す。

「お客様、他のお客様のご迷惑になりますのでその子の手を離していただけますか?」
「手握っただけで迷惑になるのか?」
「少なくとも私が不愉快なんだよっ、−こほんっ!
 いえ、他のお客様が見ているだけで不快になってしまうではありませんか。
 何だったら、少し奥で私とお話でもしましょうか?この子の責任を取ってもらおうかと思いますが、それとも今ここで帰られますか?」

「アンタ、俺たちに喧嘩売ってんのか?」
「いえ?」
「ちょっと来いよ、メイドさんよぉ・・・」
「わかりました。
 かすがちゃん、ちょっと屋上でしまー・・・お話してくるから、お店頼むね?」
「で、でもっ」
「上杉先生まだ来てないんだから、頼むよー」

そう言って、私は不良たちと外へ出る。
連れてこられたのは体育館裏。
また、よくある・・・。


「で、どうされますか?」
「へっ、素直に付いてきやがって俺らに遊ばれたかったかー?」

ひとりが私の腕を掴もうとする。
その瞬間にさっと避けて、鳩尾に蹴りを入れる。

「すいません、当たっちゃいましたけど大丈夫ですか?」
「ぐ、ふっ」

そのまま倒れて、意識を失ってしまったみたいだけど。

「な、なんだお前!」
「・・・ただの女の子ですよ」
「う、うわー」

一応、逃げてくれた訳だけど明日とかまた来なかったらいいんだけど。
・・・っていうか、久々に回し蹴りしたために関節がいたい。



中学校へ上がってから私は正直暴れまわっていた。
いわゆる、不良になってた。
チカちゃんと別れてから、私の中でいろいろ見失って喧嘩にあてくれてた時期があった。

その時の感覚は未だに残っていたらしい。
ちょっとだけ、良かったなとは初めて思った。

「さて、帰るかー」

厨房を長曾我部君一人で任せたことを思い出し、私は急いで帰った。




「ごめんっ!!
 大丈夫だった!?」

帰ったにしろ、今日の営業時間は既に終わっていた。
皆が疲れてるのは言うまでもなくわかる。

「先生、大丈夫だったのか?」

心配そうに私の元にきたかすがちゃん。

「大丈夫だよ。
 でも、あの手の人たちは群れて仕返しとかするから気をつけないとね・・・
 今日みたいにあっさり帰ってくれたらいいんだけどね」
「そうか、先生ありがとう。
 ・・・あ、これ良かったらお茶だ」

差し出されたペットボトルを受け取る。
ほんと、笑顔になったら可愛い子だなって思う。
普段から可愛いわけだけど、普段は結構逞しい感じだからかな・・・?
こういうときってすごく可愛く思える。

「どうした、そんなに私の顔を見て?」
「いや、かすがちゃんは可愛いなーって思って・・・」
「な、何言ってるんだっ!?
 先生の方が可愛いに決まってるだろ、っ」
「そんなこと言って照れ隠ししちゃって、可愛いなー」

何、この可愛い生き物。
素直に顔を赤く染めちゃって・・・。

「だからっ!」
「上杉先生もかすがちゃんの笑顔が好きだって言ってたのもわかるよ」
「え、謙信様がっー・・・」

あら、固まったよ。

「先生、ちょっといいか?」

呼ばれた方を向くと長曾我部君がいた。
手招きされてるので行ってみると、お金のことらしい。

「今日の売り上げが、こうだった訳だが。
 ぶっちゃけ、俺ら生徒は資本を知らねぇんだ・・・赤字か、黒字か?」
「えっとね、元が意外に少なかったからこれだけ集めれたら黒字だよ。
 よく頑張ったねー」
「お、おう!
 ちなみに、先生の代での売り上げランク一位はどのくらいだったんだ?」
「これのー・・・ざっと8倍以上ー、くらいかな?」
「えぇっ!?」

ちなみにその結果は過去最高で、今でもこの記録を塗り替えたクラスはない。
当時の、私のいたクラスだった。

「そんなに、いけるもんなのか?」
「意地でやったからねー・・・。
 知ってる、この学校の文化祭のジンスク?」
「あるのか?」

そう、それは恋人たちだけに通じるジンスク・・・。
後夜祭の時に、男女二人が屋上からキャンプファイヤーを見てそれよりも熱いと思われるキスをすれば、いいらしいんだけど。
・・・熱いキスって。

「ま、長曾我部君もやってみたらいいよ・・・って言いたいところだけど、屋上開いてないんだね、残念。
 屋上に行けるのが、ランク一位のところだけでね。
 で、うちのクラスだったんだけど誰も付き合ってる人いなくて、いちゃこらしてやがる奴がいるクラスになんか負けてたまるかーって。
 ・・・で、勝っちゃったんだよね」
「そっか、盛り上がったんだな」
「結局、誰も屋上に行かずー、って話だよ」
「何かそれで良かったのか、よくなかったのかっていう・・・」
「ほんとにねー。あ、長曾我部君呼ばれてるよ?
 行っておいで、ほんと仲良いよね・・・」
「おう、じゃあ」

チカちゃんが遠くなった気がするよ。
きっと私の気持ちになんか気づくはずがない。
私の恋心も早くなくなってほしいものだよ。

「よお、honey」
「あれ伊達君?」
「この文化祭が終わったらアンタに言いたいことがある」
「・・・終わったらってことは明日?」
「ああ」
「わかった、今度こそはちゃんと明日言ってね?」
「え?」

長曾我部君と約束して、約束が無くなった”明日”。
”明日”は来なかったからか、約束に恐れを抱いてしまうのも、事実・・・。

「何でもないよ」
「なら、いいんだがー」


『生徒は速やかに下校しましょうー』


しばらく他愛もないことを話していた訳だが、放送によって下校を強いられてしまった。

「皆明日もがんばろうなー」
『おう!』

実行委員の長曾我部君が終わりを締めて生徒たちは帰っていった。
そして、長曾我部君は彼女である子と手を繋いで帰っていった。



早く忘れないかな、恋心・・・。
幼馴染であったことは変わらない事実であり続けるんだから。


なんて、言いながらも私はなんてあきらめの悪い子になっちゃったんだろ?











  


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