第十八話

記憶を失ってからどうも自分が変わってしまったような気がする。


失ってしまう直前までは真面目に学校へ登校し、問題も起こさずに毎日を過ごして、女と遊びほうけることなんてなかった。

ぶっちゃけ、高校入学してからでの生活ではそういうことがあった。
だが、学年が上がってからはぴたりと問題行動が止んだ。


環境はそんなに変わってしまったところは無いし、何が俺を変えた?

それが大事なことのような気がするのに思いだせねぇ。


そして、むしゃくしゃしている内に俺の生活は過去に戻ってしまった。



お袋には内緒にしていたが毎日遊びほうけていた。
学校には行くが、早退したりすることが多くなってきた。

もうここまで来たら本格的に不良になってやろうかと思うぐれぇだ。
俺は見た目を気にされることが多く、不良に絡まれることなんてしょっちゅうだ。
だから、一時は喧嘩を売られては討ち返して・・・気のすむまで暴れてたわけだ。


で、毎日遊びほうけていた結果熱を出してしまった。

・・・・・・すっげぇくらくらする。
頭いてぇ。

夜遅くまで遊んでたこともあるもんだから、自業自得だとは思う。
昨日の夜から寝てたはずなのに今はもう、次の日の午後7時だ。
・・・俺は一日ずっと寝てたのか・・・・・・?

思えば、体は昔から弱かった。
小学校に上がる前に鍛えだしたから、多少は強くはなったが、まだまだらしい。
ま、でもいつも女の後ろに隠れてた俺がよくここまで成長できるようになったもんだとは思う。


「チカちゃん、入るわよ」
「おう・・・」

昔を懐かしんでたら、お袋の声が聞こえ、とっさにちゃんと転ぶ。

「さっき名前ちゃんが来てくれて、手紙とか持ってきてくれたわよ」
「・・・・・・名前ちゃん・・・?」
「ほら、今は副担任先生の!じゃあ、お母さんは出るからゆっくり寝ときなさい。
 ・・・机の上にいろいろ置いとくからっ」

お袋は持ってきた、学校のプリントのであろうものを俺の机の上において出ていった。

・・・今は?
さっき、たしかお袋は”今は副担任の”って言ったよな?
今じゃなかったらどうなんだ・・・。
しかも、名前で読んでやがったし。今までの担任とかを思い出してみてもお袋がそうやって教師を渾名ですら読んだことがなかった。

・・・お袋は極度の心配性であるために、俺は記憶喪失、と言っても一部の記憶だけだが欠けたことを言っていない。

だが、お袋は今の俺よりもあの人のことを知っているっぽい。
剣道部の奴らが教えてくれたら早いが、お袋に聞いた方が手間はなくなるのかもしれねぇな。


机の上に置かれたプリントをとって読んでみると、連絡事項の手紙、顔見知りの奴や野郎共からの手紙・・・そして、あの副担任の先生からの手紙が入ってた。

顔見知りの奴からは、”大丈夫か?”とか”お大事に”等とありきたりな言葉が入ってた訳だ。
俺が一番気になったのはあの人からの手紙だった。

担任でもある訳がねぇのに、副担任がわざわざ書いてくれるもんなのか?
少し疑問に思った。

あれ、わざわざ糊付けまで・・・。

丁寧に端を切っていくと、二枚の便箋が入っていた。

一枚目、ドキドキしながら開いてみると・・・

『残念だったな、まずは俺からだ』

・・・政宗の字だ。
ま、あいつなりに言いたかったことでもあるんだろうと思う。
まずは、友である奴の手紙を読むことに決めた。


『ま、熱出したようだが大丈夫か?
 アンタだったらすぐに治るだろうけど頑張れよ。
 本題はhoneyのことだ、もし今アンタが俺の彼女のことを話していくんだと思ったら今すぐにこの手紙は読むな・・・ま、察しはついていると思うが斎藤名前のことだ。
 今アンタにあいつはどうやって映ってる?
 ただの記憶がない女としか映ってねぇか?
 ・・・それだけなら、もうhoneyに必要以上近づくな。
 ただの生徒として教師に接しろ。
 書いている意味がわからねぇかもしれねぇがわかれ。
 このことはhoneyには絶対に言うな、あいつを傷つけたくないならな。
 じゃあな、durling!
 お大事に・・・早く学校来いよ
  政宗』

・・・なんだ、こいつは?
いちいちわかりづれぇ、文章で。

要するに、あの人のことを何にも思ってなければ、近づくなってことだよな?
俺があの人に対する気持ち・・・わかんねぇよ。
記憶も欠けてるままで、今の気持ちなんて本物でもねぇだろ。
まあ、いい。
何とかしてでも、記憶を戻すとして。

二枚目は、女の字で書かれてあった。

『長曾我部君へ
 熱で休んだって言ってたけど大丈夫?
 最近早退もすることが多かったし、夜遅くに何度も外で見かけることがあったからそれが原因だったりするんじゃないかな?
 だから、今ぐらいはちゃんと休んでください、元気に学校来てね。
 皆待ってるから。あなたが”野郎共”って慕ってる子たちもね、すごく心配してたよ。それに、最近学校にあんまりいないから寂しかったりもするみたいだったよ。
 一緒に皆からのメッセージも持って来たの見たかな?
 早く元気になって騒いじゃってね・・・周りに迷惑が掛からない程度にだけど笑
 夜遅くはいろいろ危ないからあんまり出ていっちゃ駄目だよ?でも、先生この間あなたが女の子と歩いてるところ見て安心したよ。
 じゃあお大事に、早く元気になってね!
  副担任 斎藤名前』

・・・・・・ばれてたのか、ふらふらしてたのも・・・女連れて歩いてたのも。
でも、安心ってどういうことだ?
ほんとに意味がわからねぇ。

政宗にしろ、あの人にしろ・・・。

でも、学校にちゃんと登校しようと思う。
野郎共と・・・騒ぎてぇしな。

あいつらの手紙にもあったけぇ文章ばっか書いてあるもんだ。

・・・もうちょっと真面目に頑張るとすっかぁ。








  


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