第十六話

どうやら、私はチカちゃん・・・−もとい、長曾我部君に忘れられたらしい。
私だけ・・・、
私の記憶だけがなくなってしまったらしい。


せっかくチカちゃんだってわかって、いろんな話をしたいなって思ったところなのに。
私の夢はあっさりと破れてしまった。

記憶が戻るのかもわからない。

ただ、不安だけが残った。

でも、考えてみれば残念だったけど、それで良かったのかもしれない。
本来、生徒が教師に恋をすること自体間違ってることだ。
恋してるのが剣道部の少しの人にはばれてしまってるけど、他にはばれてないはずで。
もしも、他の生徒にばれてしまったら長曾我部君は非難されるかもしれない。
今までのことがばれたら、私の教師の立場も危なくなってしまう可能性もある。

だから、

良かったんだって!


いいことのはずなのに、私の顔は晴れない。
そのまま、病院を出たところで声がかかった。

「honey!!」

え、伊達君?
私をこう呼ぶのは伊達君で思った通りの人物が振り返ってみればいた。

「どうしたの?」
「アンタはそれで良かったのかよ?」
「・・・良かったんだよ、これ以上ね長曾我部君に世間に逆らった感情なんて持ってほしくないし、ちょうど良かったんだよ。
 ”それで良かったの”」
自分に言い聞かせるように言ったその言葉、ちょっと胸が痛かった。

「じゃあ、何で泣いてんだ?」
「へ?」

瞬きをすれば、大量の涙が落ちた。
きっとさっきから少しずつ涙は流れていたんだろう。

「違うの、これは。
 とにかく私は教師としても、そうじゃないにしても長曾我部君には幸せになってもらいたいものだよ」

涙を拭ってそう言った瞬間に、手を引かれ伊達君に抱きしめられた。

「伊達君・・・?」
「泣くぐれぇ辛いんだろうが。
 アンタ・・・元親が好きだろ」
「・・・えぇっ!?そんなこと思ったことは一応無いんだけど?」
「ゆっくり考えてみろ、周りから見たって皆俺と同意見だろうよ。
 生徒じゃなかったらアンタにとって元親はどうなる?
 考えたことなかっただけで案外意外な結果になってるのかもしれないぜ」

伊達君の言葉は意外に衝撃的だったけど・・・。
それよりも。

生徒にここまで心配掛けれないね。


「伊達君、ありがと!
 私はとりあえず帰るから、戻ってあげて」

伊達君の腕を取り、私は笑顔を戻した。

今一番大変なのは長曾我部君。
本当かどうかはわからないけど、好きだったんなら私がこんなんじゃ駄目だよね?


ちょっとずつだけど、前向きになろうとー、決めた。






  


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