第十四話

長曾我部君と別れて次の日ー。

いつものように道場へ赴いた。
でも、そこにいつものように長曾我部君はいなかった。

話がある、っていってたのに・・・。
なんだったんだろ?
ま、気にしてても仕方ないかな?

とりあえず、私の次にいた伊達君、先輩におはようの挨拶をして私はひとり更衣室へと向かった。



向かったとしても、気になるのは長曾我部君のこと。
いくら生徒とはいえ、好きだといってくれて悪い気がする訳がない。
しかも、長曾我部君が大人びている分歳の差をあまり感じる事は無くてどきどきすることは正直少なくない。

「は〜」

私はどうしたらいいんだろうね?
ほんとにわかんない。

今日話す、って言ってた内容が別にお前のことが好きでもなかったとか言われたら気持ちは・・・一応は軽くはなる。
多少の精神的な犠牲を払ったとしても今まで以上の負担からは逃れることはできる。
でも・・・

ーっ!?
”でも”なんなの?
ふと過った考えは何?
もしかして、私のほうが好きになりそうだったとか?

・・・・・・ないよねぇ・・・。
実際歳の差ある訳で!
私には色恋沙汰とかそういうの向いてなくて!
長曾我部君も若気の至りでああいう風に言ってる訳でっ!!

・・・−ってなに、言い訳して、勝手に落ち込んでるんだろう?
何もないんだから!
別にいい人とか思ってるけど、好きだとかそういう風には思ってないんだから。


「私、どうしちゃったんだろ・・・?」

なんか、いつものように集中できない。
まるで、あの時のように・・・。

気が散るばかりで、今度は私がちょっと駄目っぽい。
まぁ、それでも私は休めないから体力で頑張る訳だ。

一度、顔を洗ってから道場へ入った時だった。
なんだか、寒気が一瞬した。
まだ夏だっていうのに・・・。

「おい、元親が病院に運ばれたっ!」
慌てて入ってきたのは伊達君。

え、病院?

「事故りやがった・・・」
『っ!?』

瞬く間に道場の中に走り渡った緊張感。

「無事だったのでござるか・・・?」
「・・・命に別状はねぇみてぇだが・・・起きねぇみてぇだ」
「え・・・?」

嘘・・・。
昨日普通に喋ってたんだよ?

それで、明日話したいことがるって言って、わかったって返してー

約束したんだよ?

「斎藤!しっかりしろ、お前は今崩れてる暇なんてねぇだろうが!!」

先輩に怒鳴られてはっと我に返る。

「す、すいません・・・」

「斎藤だけじゃねぇ、今ここにいる奴ら全員だ!
 お前らはさっさと練習しとけ、長曾我部が死ぬわけがねぇだろうが」

うん、そうだよね。
命に別状はないし。

「斎藤、お前は今すぐ病院へ行け」
「え?」

先輩から出たのは思いがけない言葉だった。
だって、今皆を落ち着かせたばっかりなのに。

「お前は今日は練習にいても意味無いってことだ、いいからさっさと行って来い」

きっと先輩なりの優しさだったんだろう。
私は道場を出て、着替えを済ますなり、病院へ向かった。




「長曾我部君っ!!」

看護婦さんに言われた病室へ入るなり、長曾我部君が眠ってるのが目に入った。

「あれ、あなた・・・?」
すぐ隣に座ってたのは長曾我部君のお母さんらしき人。

取り乱してしまった私は後からになって恥ずかしくなる。

「す、すいません!
 私長ー、元親君のクラスの副担任の斎藤名前と申しますっ、
 ・・・取り乱してしまってすいません・・・・・・」
「ああ、副担任の。
 私は元親の母です、いつもお世話になっております。
 すいませんねぇ、わざわざ」
「いえいえ・・・それより、元親君は・・・っ!?」



長曾我部君は静かにベッドの上で眠っている。
綺麗な銀髪を少し下して、眠っている。


その姿が、重なったー・・・。


「チカ、ちゃん・・・?」


十数年前、お別れをした彼女・・・、いや、今だと彼になるかな?
彼がそこにいた。


「もしかして、名前ちゃんなの・・・?」

お母さんが恐る恐る私にそう問いかけた。

”チカちゃんは意外に近くにいるもんだぜ”

そう、言った言葉が繋がった。

「・・・もしかして、チカちゃんとこのおばさんですか?」
「やっぱり!名前ちゃんなのね?
 あれからもう数十年が経つっていうのに、よくわかったわね・・・」

私でも驚きだ。
だって、女の子だと思ってたチカちゃんが男の子で、今目の前にいる。
会いたいと思ってた人と、もうすでに私は会ってたんだ。


「チカちゃん、なの?」

そう問いかけるが、返事はもちろん帰ってこない。
私は長曾我部君に我慢させてきたのかな?

これまでだって、好意を踏みにじってきた。

「名前ちゃん、チカちゃんまだ起きないの、困ったものね?
 せっかく来てくれたのに・・・。
 お医者さんが言うにはいつ起きるのかはわからないそうよ、だからずっといてもらうのは申し訳ないけど、もう少しいてあげてくれないかしら?
 私用事で残りたいけど、残れないのよ・・・、息子がこうやって苦しんでるのに駄目な母親ね・・・」
「いえ、そんなことないです。
 私今日は休みをもらってますから、どうぞ気になさらずに・・・」
「そう、ごめんね?」


チカちゃんのお母さんはそう言って、申し訳なさそうに部屋を出た。


チカちゃん・・・だったんだね。
会いたかった人が目の前にいるのにいざとなったら戸惑ってる自分がいた。

こんなに大きく逞しく育って何だか、親心的な何かで嬉しくなる。
あんなに女の子らしかったのにね?
きっと可愛い女の子に育ってるって勝手に思ってた。

でも、こうやって意外だったけど、大きくなってくれて嬉しい。

だから、もっと話をしたい。

だから・・・−


早く目を覚まして・・・。


チカちゃん・・・。









  


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