第十三話

「はぁー」

うちの学校の剣道部の合宿の手伝いに行ってあれから一週間は経とうとしている。
合宿は終わっても俺は毎日のように学校の道場へ行って名前に会ってる訳だが・・・
出てくるのは溜息ばかり。

原因はー、そりゃ合宿6日目のことが原因に決まってら。


あの時、王様ゲームで最後に俺は名前にキスをした。
しかも、嫌われるのを恐れてわざわざ酒まで飲ませてした訳だ。

自分でも何やってんだとか思ってた。
でも、止めることができなかった。

あいつに嫌われたくないけど、でも手に入れたい・・・
そんな時俺の中の悪魔が囁いた、
”やっちまえ”ってな。

今頃になって後悔が来た。
どうして、あの時やっちまったんだ。

おかげで、今練習に出たって政宗にも幸村にも負けて俺が来た意味もなくなってる。
・・・情けねぇな。


俺は一度、道場から出て裏にあるベンチに腰を掛けた。

「くそっ、」
考えてみれば、考えるたびに自分が馬鹿だとしか思えない。
冷静にもなれない・・・。

あいつは別に”チカちゃん”に恋をしてる訳でもねぇ、俺が恋してるだけで。
俺が勝手に想ってるだけだ。

なら・・・俺が誰であろうとあいつを振り向かせることができねぇと意味がねぇ。
だけど、俺はただ嫌われることを恐れて何にもできねぇでいる。

こんな、俺に誰が惚れるっていうんだ?
所詮顔だけですり寄ってくる意味の分からねぇ女ばっかだ。
あいつは絶対に来ることはねぇんだよな。

「はっ、ほんと俺馬鹿だ・・・」

自嘲気味に笑った。
やばいな、この調子じゃ駄目だ・・・。

なんとかしねぇとー、そう思った時だった。

「あ、ここにいたんだっ」
聞き覚えのある声がした。
よく見てみると名前だ。
名前はそのままこっちに来て俺の横に座った。


「どうした、先生?」
「うん、やっぱり最近長曾我部君何かあったでしょ?」
「え?」

俺っていうよりはお前さんな気もするけどな・・・。

「私もしかして合宿の最後の夜で何かやらかしちゃったかな?
 ・・・記憶が本当になくて、あれから私に対しての態度が変わったような気もするし、最近集中力とかも欠けてきた気がするよ?
 ま、私への態度とかはいいんだけどね」

俺自身、こいつには正直気持ちは隠していたが気まずくてなかなか離せなかったのは事実だった。
だけど、気づかれてたなんて思ってもなくて、言葉をなかなか紡げず沈黙がこの場を支配した。

そんな中、沈黙を破ったのは名前だった。

「やっぱり私のせいだったりするのかな・・・?
 ごめんね、都合よくなってて。でもね、悪気は無いと思うの・・・ごめんね、長曾我部君ー」
「違ぇっ!」

今は後悔よりも罪悪感が俺の心を埋めた。

「お前さんは何も悪くねぇ、俺が全部悪いんだ。
 ・・・あの夜、俺はーお前さんにキスをした。わざわざ酒で記憶もとばせてな?」
「っ!?」
「嫌われたくなくて俺は・・・、ほんっと最低だよな?
 ごめんな、俺好きだとか言ってて、いっつも嫌われんのを恐れてお前さんに気使わせてばっかで・・・
 餓鬼みてぇになってよ・・・ごめんな・・・」
「・・・ううん、私は長曾我部君を責めたりする気もないし、別にどうこうしろって思ってる訳でもないよ。
 さすがにね、生徒とそういうことやっちゃうのは駄目だからね?
 ー・・・もしね、私が本気になったら困るのは私じゃなくて長曾我部君なんだからね、それだけはわかって」
「俺が?」
「私は長曾我部君を傷つけたくないよ・・・」

俺に悪いと思ってなのか、それとも自分自身に嘘をついて言ってるのか・・・
そんなことはわからねぇが、ひどく泣きそうな顔をしていた。

この顔に俺がさせてるんだよな?

好きだとか言ってんのに、笑顔さえも守ってられねぇ・・・。
俺はどんだけ情けねぇ男だ。

「ごめん。先生、俺今日はちょっと抜けるわ・・・」
「え、いきなり?」
「おう、一日冷静に考えるから・・・
 明日ちゃんとはっきり言いてぇことがある」
「うん・・・?いいけど」


ちゃんと言おう、俺の気持ちを。
生徒としてしか今は見られなくても、この十数年間想ってきた気持ちを。

最後に名前をぎゅっと抱きしめた。
そうしたら、名前は赤くなりながらも、仕方ないというように笑った。

その笑顔にほっとしながらも俺はそこを立ち去った。

「じゃあな、先生」
「うん、じゃあ。明日待ってるからねー」

いつもような別れの挨拶。
せっかく戻ったのにまた狂わそうとしている俺を、許してくれ。
それだけお前さんが好きで仕方ねぇんだよ・・・。



「・・・悪ぃな」










  


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