第九話

夏休み初日の朝を迎えた。
昨日のことがあったけど、あの時の私はちょっとおかしかったんだということで片付ける。
・・・ま、それは長曾我部君に悪いとも思っているんだけど。
でも、このままだた進めないから強引にも踏ん切りをつける。


朝、いつものように学校に着くといつものメンバーと長曾我部君がいた。
そっか、今日から本格的に手伝ってくれるんだったのかな?


「おはようございまーす」
「おはようさん」
「Good morning, honey」
「おはようでござる」
「おはよー」
「おう」


元気よく挨拶すると同時に三者三様の声が返ってくるから面白い。
この場合は、五者五様なんだけど。

「斎藤、知ってるとおり今日から長曾我部が手伝ってくれるからな。
 一応疲れは減るだろうな」
「そうですね、長曾我部君もわざわざ引き受けてくれてありがとねー」
「おう!とは言っても、俺にできることはあんまねぇけどな。
 頑張るからよ、よろしく頼むぜ」

私としてはいつもみたいに接してるつもりでも何処か、詰まってしまう。
振り切ってるつもりなのに・・・。
長曾我部君はというと、なんだかいつも通り。
私だけが気にしてるみたいで本当に私の精神年齢低いなー、とか感じてしまう。
どうせ、この道場に今いるみんな女慣れしてるんだろうしね。


「なぁ小十郎、せっかくの夏休みだ。生徒のmotivation上げるためにも特別企画でもしねぇか?」
「特別企画ーですと?」
「そうだな、勝った奴が負けた奴に何でもさせるっていうのはどうだ?」
「おいおい、竜の旦那・・・それって先生以外に女の子いないんだよ?
 それって、あんまり楽しくないんじゃない?」
すかさず、猿飛君の突っ込み。
・・・って、私以外にも女の子がいたら何させる気なの?
私に何をさせる気なの!?


それはそれで置いとくんだけど
「でもそういうのはありだよねー」
「だろ?」
「私たちが学生の時もしましたねー」
「そうだな、あの頃のは本当に今思い出してもすごいことになったな・・・」

「一体何があったんだよ?」


遡ること、5年前の夏。
私は初めて剣道部の合宿に参加した。
当時顧問だった、武田先生は何かと豪快の人で・・・何かとというか、何もかも豪快だった。


山の中の合宿・・・そこで私たち生徒は竹刀を持って苦情が出ている穴なし熊の退治をさせられた。・・・もうこの時点でいろいろおかしいよ!
ま、それは置いといて・・・男女二人一組でそれをして、一番早く退治できた人には王様ゲームでいう王様の権利をやろうと言われた。


つまり、実力勝負の王様勝負ー・・・。


それはもう大変だった。
王様の権利を手に入れるためには熊を退治しなければならない、そんな中での合宿。
今思えば、合宿でそんなのおかしいんだけど、当時は感覚がいろいろおかしくて皆で盛り上がってた。

それで結局いち早く退治して優勝したのは、小十郎先輩と私のペアだった。
先輩はもう昔からいろいろすごかったから、ペアを組めた私はラッキーだったと思う。

で、その権利はどうしたかというと・・・先輩は他の人に譲った。
そこからがもう大変。

その頃の剣道部は女子も男子ぐらいいるために、教師公認の合コン化していた。

「1番と2番が唇がつくまでずっとポッキーゲーム!」
「5番と26番が今夜一緒に寝る!」

・・・もう怖かった。
当たり前に何を寝るとかいってんですかっ!!
そんな風にもうめちゃくちゃだった王様ゲーム・・・。

「28番がこの部で一番付き合いたい異性をカミングアウトッ!!」
『えー、それだけー』
そんな不満そうな声が聞こえてくる。
で、誰なんだろなー・・・え・・・
私の紙にはしっかりと28番という番号がふってあった。

「どうしよ・・・」
私だとばれてしまったとたんに一斉に皆の視線が集まった。
この状況を乗り切れることもなく、私は結局言う羽目になった。


それが終わったのは小十郎先輩がキレてからだった。
さすが、オトンだ・・・とか思いながら、ほっとしていた。

この部の狂ったテンションに結局3年間ついていけた私自身に驚きだったよ。


「今思えば本当に俺らはおかしかったな・・・」
「そうですね・・・」
思わず、遠い目をしてしまう。
「で、アンタは誰の名を言ったんだ?」

「え、小十郎先輩だよ?」
『はぁぁ!?』

え、え?
何?このありえねぇ、っていう感じの雰囲気?

「まさかの小十郎かよ!」
「だって誰とも付き合いたいとも思わなかったもん。
 それに、変な人言っても変なリアクションされるのも嫌だしさ・・・それに、先輩は当時モテたから結構妥当なとこなんだったんだよ?」

「い、今はそんな風に片倉先生を見てないんだよなっ!?」
へ・・・?
長曾我部君の異常なほどの食いつきよう。
普段の姿を思い浮かべてみると、笑いそう。

「今っていうか、昔から見てないよ。
 どうしたの、そんなに焦って?」
本当は理由なんかわかってるんだけど。
それをそのまま受け入られるほど私はそんな余裕は持ってない。

「そりゃー・・・」
口ごもりながら何かを言おうとしている長曾我部君を見ていたわけだけど、それはすぐに終わった。

「おい、今年合宿しようぜ!
 っていうか、何で今まで無かったのか不思議なくらいだぜ」
伊達君の声によって。
「政宗様!いきなりそんな風に言っても通る訳がないでしょう」
それは、御尤もですよ。

「Ha!んなもん、なんとかすりゃいいじゃねぇか。
 生徒たちはもちろん、斎藤先生もしてぇんじゃねぇか?」
何を無茶なことを言ってるの、そんなことを思いながら話を聞いてたら、急に私に話題を振られた。

・・・したい、か?
「・・・できるものならもう一度味わってみたくないこともないですけどね。
 でも、合宿なんてそうそう簡単にできる訳でもないし。伊達君、今回は無理だよ?」
「名前、俺が今日抜ける間、生徒たち見れるか?」
「え、まぁ長曾我部君がいますし、今日は普通の生徒は休みですから大丈夫ですよ?」

「そうか・・・行ってくる」
先輩はそう言い残して、道場を出て行こうとする。

「・・・いやいやいや、何処行くんですかっ!?」

「一週間後から合宿だ、いいなっ!?」

先輩はそう叫んで結局道場を出て行ったのであった。
おい、結局伊達君に甘すぎやあしませんか?







  


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -