第六十八話

元親さんが両親への挨拶を終えて、ゆっくりしていくのかなと思いきや帰ると言われた。
まさか帰るとは思わなくて、私もしょんぼりとしていたけど帰り際に「後で来いよ」と言われ、行ける口実を思い出して気分は晴れた。

そうだ、私にはまだチョコレートケーキがある。
渡さない限りは今日という日は終えられない。



元親さんを見送り、両親にいろいろと事情徴収された後チョコレートケーキをラッピングしてハミングしながら元親さんの家までの短い距離をスキップした。


「元親さん!」

ご機嫌なままにドアを開けて見れば、ちょうど廊下に出ていた元就さんとばっちりと目が合った。

「あ、元就さん、どうも」
「そのテンションの下がり具合はなんだ・・・」
「そんなことはないですよっ!
 ちょっと冷静になっただけです」
「まあいい。
 その袋は何だ、冷蔵庫に入れるものか?」

チョコレートケーキ結局は元親さんのになるから冷蔵庫に入れる前に渡さないとということを思いだし、反射的に元就さんにお礼を言った。



「元親さん!!」

袋はある程度揺れないように急いで客間に入ってみれば、元親さんがいつもの格好で座っていた。

「名前、待ってたぜ」
「あ、あのっ!これどうぞ!!」

袋を渡せば、その場で開けてケーキを確認した。
・・・良かった、形崩れてない。

「どうしたんだ、これ?」
「バレンタインだけじゃ足りませんでした!
 ・・・改めまして、元親さんのことが大好きです」
「名前・・・ホワイトデーだってんのに。
 ほら左手出してみろ、お返しだ」

出してみろと言われながらも手を引っ張られて、何故か体は固まった。
何だろうと元親さんの手を持っていない方の手を見てみれば、指輪だった。


「幸せにする、だからずっと俺と一緒にいてくれ」


左手の薬指に指輪がはまる。
その光景が信じられなくて、涙が出た。

「ほら、返事は?」
「幸せにしてください」

元親さんが涙を親指で拭い、薬指に同じ指輪をしているのが見えた。
何故か見覚えがある気がした。

「この指輪は日輪の御加護があるらしいからな」
「え?」
「元就ほんと何かと名前大事にしてるからな、俺だけじゃ勝手に進めるなってよ。
 その結果わざわざ厳島行って祈祷だよ・・・あ、俺もしたけどな」

指輪で祈祷って・・・初めて聞いた。
でもいろんな人に支えられて今こうしているんだと思えば凄くありがたかった。
鶴姫ちゃんも、孫市ちゃんも、親貞さんも、親泰さんも、元就さんも・・・そして、元親さんがいてくれたから私は今こうして凄く幸せなんだ。


「本当は二人きりで過ごしたかったけど、今日は元就誕生日でな。
 いろいろ手伝ったんだから祝えってよ・・・まあ挨拶の練習もあいつでしたから感謝はしてるんだけどな」
「気にしてません、散々お世話にもなってますし」
「じゃあそろそろあいつも呼んでやるか・・・だがその前に。
 名前、ちゃんと元親って呼んでサービスしてくれたっていいんじゃねえか?」

サービスと言ってるものは価値観しらないから私なりの頑張りで許してもらおう。


「元親」

そう名前を呼んで、服をひっぱり自ら唇を押し付けた・・・元親さんの唇に。
恥ずかしいから目を瞑ってたので元親さんの表情はわからないけれど。
でも肌に感じる吐息からだけだけど、私なりの頑張りで許してくれてるんじゃないのかなとなんとなく思った。

「大きくなったらキス以上のことも教えてやる」


大人な笑みをした元親さんを見たような気がしてどんな反応をしてみればわからず、苦笑してみれば頭を撫でられ、気長に待っていてもらおうとそっと元親さんの服の袖を握りしめた。





(終)






  


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