第六十七話
徹夜で両親に気付かれないようにチョコレートケーキを作った。
前回よりも気持ちを込めて、凝ったものを作るとだいぶ気合が入ったような感じになったのはもういい。
どうせなら気合入れてんなとか言われたいし、気づかれたい。
そして、作った結果起きた時にはもう11時近くだった。
・・・私どんだけ寝てるの。
急いで起きてリビングの方へ降りていくと元親さんの姿が見えた。
何故か正装。
母さんが私が起きたのに気づくと早く着替えてらっしゃいと目くばせをした。
私は元親さんに軽く会釈し、顔を洗って普段通りの格好に着替えた。
リビングの方へ戻ってみれば、元親さんと両親が対面で座っていた。
私も空いている元親さんの隣へ座る。
「名前おはようさん」
「あ、おはようございます」
さっきから真面目な顔してると思ってたけど、いつもの笑顔に戻り何故かほっとした。
それにしてもどうしたんだろう。
朝からうちに来るなんて。
「今日は名前さんとのことについて大事な話があり来ました」
「名前と?」
笑顔はなくなってしまい、さっきみたいな真面目顔が戻ってきた。
何だかいつもと違った人みたいだった。
いつも母さんの前でも名前ちゃんと言っているのに、今日は名前さんと言っているし。
まず正装で、真面目な雰囲気が漂ってるし。
元親さん普段会社とかではこんな感じなのかなとか思えば納得はいくけど、ここは私の家であって会社ではない。
「・・・名前さんを俺にください!」
『・・・・・・・・っ!?』
その場にいた元親さん以外が息を詰まらせた。
私だってそうだ。
何も聞いてなかったのだから。
目の前に座ってる両親なんか信じられないと目で訴えているのだから。
声を発したのはしばらくしてからだった。
「元親君、それは本気なのか?
うちの娘と君は年齢差がありすぎる」
「勿論本気です、年齢差なんて感じないほど俺は彼女を愛しています。
もう俺は彼女しか愛せません」
「元親さん・・・」
元親さんの言葉に考えるように黙ってしまった父さん。
母さんの方はまだ驚きが隠せないという様な顔をしている。
「名前・・・本当はまだ言うべきじゃなかったとも思ってる。
だけどお前さんと距離を取るなんてとてもじゃねえが無理だった、悪い」
「そんな。
私だって寂しくてどう距離を取らないでほしいと言おうかとずっと考えていました」
「名前、母さんはね・・・二人の関係は反対してた訳じゃないの。
不安だったの。
元親君には悪いけれど、信じきれなかった」
「母さん・・・」
「でもね、元親君がここまで本気なら信じきれない訳ないじゃない」
母さんがにこりと笑って父さんを見てみれば、父さんはちょっと眉間に皺を寄せた。
怒ってると言うよりは、困ってると言う感じだ。
「そうだな、反対する理由はなかなか見つからない。
正直元親君が息子になったらなんて考えたことだってある、実の息子は一人残って心配させる親不孝者だからな・・・」
お兄ちゃんが父さんにそんなこと思われてるなんて初耳だったけど。
それでも両親は反対してはいないということだ。
「元親さん!」
「名前、愛してる」
両親が認めてくれたのと、元親さんがこうやってまた私を選んでくれたことが本当に嬉しい。
たまらず顔見合わせようとしたら抱擁された。
「ちょっ、元親さん、苦しいっ」
「仕方ねえじゃねえか、どうしたらいいかわからねえぐらい嬉しいんだからよ!
前みてえのとは状況が違うんだ」
思えば確かにそうだ。
縁談の時はお兄ちゃんが勝手に承諾してある日突然土佐へ行けと言われたものだから。
でも、今回は元親さんの地位とか名誉は関係ない。
元親さん自身が私を娶ろうとしてくれた。
「ずっと傍にいさせてください」
「今度は生きるも死ぬもずっと一緒だ、ずっとな?」
「当たり前です!」
私からも腕を回してみれば、ぐっと顔の距離が縮まった。
恥ずかしいけれど、嬉しさがそれを上回って躊躇いは何も感じない。
「名前・・・」
「元親さ、っ!」
目の前のことに夢中になっていたけれど、両親いたんだ。
視線に気付いた私たちは冷静を装いながら座りなおした。
「まったくいつの間にそんなに仲良くなったのか・・・」
「本当に、一気に成長しちゃって。
いろんな意味でお母さん心配だわ」
何も言えなくて反省して黙ってはいたけれど、机の下で元親さんに手をぎゅっと握られて私も握り返していた。
これからもこうやってしてていいんだと頭で理解した瞬間に私の中の高揚感は止まらなかった。
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