第六十六話

「元就さん・・・?」
「名前か、久々だな」
「お久しぶりです」

挨拶してみれば眉間の皺は浅くなった。
それにしても何かあったんだろうか、そう不思議に思って元親さんの家を覗いてみれば、焦ったように出てきた元親さんを見つけた。


「遅いっ!」
「わり、寝てた・・・って、名前どうした?」
「い、いえっ、偶然元就さんを見かけたので」




何故か今までより距離を感じてしまい、体が勝手に動いて私は会釈するとそこから走り去った。
何でなんだろう。
せっかく久々に時間に余裕あるときに会えたのに・・・話もろくにできないどころか、目もちゃんと合わせられなかった。


これじゃ駄目だ・・・!


ホワイトデーどころじゃない。
人としてなんか駄目な気がする!

今度会ったらちゃんと今まで通りの私に戻ろう。
明日にでもちゃんと話そう。


こんなとき素直に甘えられるような女子だったらなとか思う。
クラスにひとりやふたりはいる、甘い声で甘えられる女子・・・今になって思うと凄く羨ましい。

『元親さん、ぎゅってしてください!!』


なんてこと言えたらどんなに楽だろう。
正直自分がそんなこと言ってるとか考えただけで、うわあという感じで衝撃を受けるけど。
言ってみたいけど、そんなこと。

元親さんなら言ったらぎゅっとぐらい簡単にしてくれるんだろうけれど、まず私が言えない。
私のへタレが・・・。




私は自分への嫌悪に追われ、なかなか家に帰れず、ぐだぐだと喫茶店やら本屋さんで時間を潰していた。

今頃何してるのかな・・・。
毎日顔合わせてることは合わせてるけど、挨拶とか時間は一瞬で。
本当にろくに話をしていない。


雑貨屋さんに入った時だった。

愛情に飢えていたのか、ペアリングが目についた。
シルバーの土台に紫色の石がついている。

紫と言えば元親さん・・・私の中ではその方程式が成立していた。

もしこのペアリングを一緒に付けれたらとか考えている私はもう重症だ。
少女漫画みたいな話に憧れてしまってる。
それに現実的に値段を見たら諦めなければならない、ゆえに私の空想は現実になることはないんだ。

「はあ・・・本当に何かあるのかな」

鶴姫ちゃんはさんざん私の期待を膨らましてくれた。
その期待に応えてくれることが起こると信じている訳だけど・・・。

だけどせめて私から何かしたいという気持ちは変わらない。
バレンタインのときだって十分に気持ちだって伝えきれてないはずだ。








・・・もう母さんの視線なんか知らない。
どうせ、距離を取っても寂しくておわるのだから・・・。

もう一度何も気にしないバレンタインを作ろう。
私の気持ちを、元親さんに・・・もう一度・・・・・・。
好きですって、私を好きでいてくださいって。
私のことを思うのなら距離を取らないでくださいって。


私は急いでスーパーへ向かい、チョコの材料を買いに行った。
明日お返しはもらえなくても、私の気持ちをちゃんと受け取ってもらうんだ・・・。







  


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