第五話
須崎まつりというお祭りがあると元親さんに聞き、8月第一土曜日を今か今かと待ち続け、とうとう私が楽しみにしてきた土曜日がやってきた。
やってきたのにも関わらず、私の顔は楽しみとか・・・そういう反応をした顔から遠ざかっている。
それもそのはず、両親の出張が入ったからだ。
同じ高知県の中だと言っても私が住んでいる所から須崎までは遠い。
車で連れて行ってくれると言ってたのにも関わらず、両親が出張で一緒に行けないために祭りには行けない。
楽しみにしてた海上花火とも次の年までさよなら・・・。
ついてないな・・・・・・。
今感じるのはそれだけ。
それだけってのもそうだけど、相変わらず私は単純なようだ。
簡単に表情に心情が表れてしまう。
そんな私を母さんが申し訳なさそうに見る。
「名前、ごめんね。来年こそ連れて行ってあげるから・・・」
「うん、ありがと母さん。
でも私もう大丈夫だよ、今年はもう少し大人しくなるチャンスだったんだよ、きっと。
ほら、父さんが呼んでる」
「うん、じゃあ行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
「名前夜中は気を付けるんだぞ、ちゃんと鍵締めろよ」
「はいはい、いつものことなんだからそれぐらい大丈夫!
気を付けて行ってらっしゃい」
両親を見送り、ひとつ溜息をつく。
正直凄く行きたかった。
だって、祭りは好きだけど高知のなんて初めてだったから・・・
ちょっとは不安があったりしたから・・・
祭りを楽しみにしてたのに。
パンパン、と頬を思いっきり叩いた。
「来年があるんだから!!」
そう自分に言い聞かせて、私はまだ早いうちから昼、晩御飯の食材を買いに行こうと家を出た。
外を出たとたんに感じる蒸し暑さ。
それにしても未だにこの暑さは慣れないや。
ふつふつ出てくる汗を拭い、家の門を閉めたとたんにおそらく新聞を取りに外に出たであろう元親さんと目があった。
「おはようございますっ」
「おう、おはようさん。
朝早くからどうしたんだ?あ、今日の祭りの準備か?」
「うっ、・・・」
そうだ、元親さんには祭りについて教えてもらってるのに今更行けないだなんて申し訳ない。
「今日は楽しんで来いよ、何たってそこの海上花火はでけぇし、綺麗だからな!」
笑顔が凄く眩しいや。
私の方はもう嘘などつけるような心情に非ず。
「元親さん、ごめんなさい。
実は両親出張で行けなくなったんです・・・せっかく教えていただけたのに行けなくて・・・・・・」
「そうか・・・」
自分で言ってて更に心にダメージが来てしまう。
言ってしまえば、自爆?
「それで今日は今から何処行くんだ?」
「涼しいうちに昼と晩のご飯の食材を調達に、です」
「そうか、じゃあ予定は特に無いんだよな?」
「すっかり抜けてしまいましたよ、残念ながら」
「じゃあ俺と一緒に行かねぇか?」
一瞬耳を疑った。
「俺と一緒に行かねぇか?」
確かに元親さんは今そう言ったよね?
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