第六十五話
風邪を治した後から元親さんと私は親の前では距離をとるようになった。
理由はもう火を見るより明らかで母さんがなんとなく怪しがっているからだ。
正直子供の身の私には親を悲しませることは辛い。
できれば悲しませることはしたくない。
それでも元親さんとは傍にいたい。
そんな互いに矛盾された想いが私の中で渦巻いていた。
そうすれば元親さんが距離を少し取る提案を出した。
私としてはまた気を遣わしてしまったのと、距離を取られる寂しさで浮かない顔をしてしまったが、元親さんが少しだけだから辛抱しろと励ましてくれた。
少しだけだから、その言葉を信じてはいたものの既にそうなって幾分の月日が経った。
少しは会ってはいるというものの・・・寂しい。
間にあったバレンタインディも呆気なく終わった。
私が手作りをしたけど結局渡すだけで終わった。
そりゃ元親さんが嬉しそうにお礼を言ってくれて凄く嬉しかったけどさ。
何の触れ合いもない。
前まではあれだけ私に恥ずかしい元親さんだって言い出しっぺだとはわかっているが、冷たすぎではなかろうか。
いつだってそうだ。
恋しいのは私ばかり。
いくら想ってると言われても想ってる大きさが違うんだ・・・。
そんなマイナスな事ばかり考えていても仕方ないというのに。
私はいじけてばかりいた。
そんなある日ホワイトデーが近づいてきた。
あれだ、バレンタインデーで想いを伝えた女の子の好きな人が答えてくれる日だ。
いじけていたばかりの私でもその日ばかりは浮かれるだろう。
実際近づくだけで嬉しさが溢れてくる。
『元親さんにお返し貰えたらいいね、まあ今はそんな恋しててもいいじゃん?』
元親さんとの仲を知らない友人たちがそう言ってくれるたびに私の頬は緩みっぱなしだということはもうとても有名だ。
孫市ちゃんにも笑われてしまう始末、気にすることはもう何もない。
鶴姫ちゃんにも当日いいことあるよと精一杯の期待を貰った。
あとは当日を待つだけだ。
私が何かできると言う訳ではないけど・・・。
そして迎えた前日。
元親さんの家の前で不機嫌そうな顔をした元就さんを見つけた。
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