第六十四話

私が名前を呼ぶと嬉しそうに笑った元親さん。

「まさかいつかこんな風に名前を呼び捨てにする日が来るなんて思ってもみませんでした」
「そうだな、俺もあの頃はこんな風に呼ばすなんてあんまり思ってなかったからな」

たった400年、されど400年。
長かったのか短かったのかはわからない。


でも確かに言えることはある。
たとえ何度生まれ変わっても私は元親さんのことが好きだってこと。
その気持ちだけは負けたくない。

「そういやそろそろご飯でしたよね」
「おう、じゃあ行くか」
「はい・・・って、何するんですか!」


元親さんが立ち上がるときについでに私を抱きかかえた。
所謂お姫さま抱っこというものをされている。
病気の時は好きな人を余計に意識するということを聞いたことがあるけれど・・・これはもうさせられてるんだよね。
私態とさせられてるんだよね。

「そんな風にしなくても歩けますから!
 それに母さんに怪しまれたらどうするんですか・・・」
「大丈夫だって。
 本気かって聞かれたら本気だって言やいいだろうが」
「そういう問題じゃ・・・それに風邪うつったらどうするんですか!!」


結局私の言葉を耳を貸そうともせずリビングへ降りていく。
このまま騒ぐのも逆に怪しまれるかと思い、恥ずかしさを耐えて黙った。
リビングに付くと驚いたような顔の母さん。

「元親君っ!?
 ・・・ごめんなさいね、もう名前ったら」
「大丈夫ですよ。
 体調悪いのに無理しちゃ駄目ですし」
「すいません、元親さん」

やっとのことで下してもらうと既に鶴姫ちゃんがいいもの見たよみたいな笑顔で笑ってる。
口から出そうなほどにいい笑顔だ。

「よかったですね名前さん」
「鶴姫ちゃんもいつかされたらわかるよ、この恥ずかしさが・・・」
「そうですね、私も宵闇の羽の方にしてもらえるのなら恥ずかしくてももう何でもいいです」
「相変わらず一途なことで・・・」


鶴姫ちゃんと恋愛の話をするときはいつもそうだった。
私が元親さんの話を出して、鶴姫ちゃんは宵闇の羽の人の話を出す。
よく知らない人だったけど話してる鶴姫ちゃんはいつも幸せそうだった。

「姫まだ風魔のことを諦めてなかったのか?」
「名前さんだって海賊さんに会えたんですよ?
 私だって会えるはずです!!」
「姫の場合想いは遂げておらんだろう・・・」
「でも運命ってどこかで繋がってるんじゃないかな?」

私がそう言う風に言ってみると目をキラキラと輝かす鶴姫ちゃんに、鶴姫ちゃんを甘やかすなというように苦笑する孫市ちゃん。
そして照れた様に笑った元親さんが映った。


今考えてみても本当に不思議だと思う。
鶴姫ちゃんの話ではまた会えたのは元親さんが私を好きだと思ってくれたから。
あの頃の私が地位無くして人に好かれるなんてことは思わない。
でも元親さんは今の私を見ても好きだと言ってくれた。






「じゃあどうぞ」

食事の準備が終わり、いただきますをしてごはんに手をつけた。
そうは言っても私はあまり食欲がある訳ではなかったので主に皆が食べる方に回ってたんだけど。
こんなに大人数で食べるのもいいな、そんなことを思っていた時。

「そういやさっきから恋話してたみたいだけど皆恋してるのねー」
「え、あ、ああ、うん、まあ・・・」

そのことで焦ってしまった。
元親さんの名前は出していなかったもののここで墓穴を掘ったらばれる。
そんな私に鶴姫ちゃんがウインクをした。

「おかあさまは学生の時はされていらしたんですか?」


ウインクの意味はそういうことだったのかとほっとする。
この後母さんの過去の話が長々と続くわけだけど元親さんとの関係が今はばれないことのほうが大事だ。
よしとしよう。

そんな訳で今日は鶴姫ちゃんのおかげで救われた。
今日は何だか人間関係を隠すのって意外に大変だと学習した一日だった。






  


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