第六十三話
近づいて私の唇ににうさぎりんごを押し付けたということは食べろということなんだろう。
食べるのはいいけど、これは唇同士がくっついちゃうんじゃ・・・そんなことを思ってる間にうさぎりんごが口に入った。
シャクシャク、と食べ進めていけば近づいていく元親さんの顔。
こんなに顔が近くなったのは何度目だ。
数えたって無駄だ、いくら近づいたって私が慣れないから。
「あっ・・・」
とうとう触れれば、吸い付く元親さんの唇。
口から洩れた林檎の果汁を舐め、軽く口付けを落とした。
「大丈夫だ、まだ我慢できるから。
・・・・・・でも昨日は悪かったな、俺・・・」
そういや親貞さんが誤解させるようにしちゃったんだっけ?
でも実際何もしなかったし。
「昨日は本当は何もありませんでしたから!」
「・・・え?」
「親貞さんが何言ったのかは私知りませんが大丈夫です、抱きしめられたぐらいです!」
言葉を言い終われば安堵した元親さん。
朝も朝であの調子だったしずっと気になってたんだろう。
「・・・良かったー、俺ほんとどうしようとか思ってたぜ」
「私のために我慢してくださってるのに追い打ち掛けたようなことしてごめんなさい」
「大丈夫だ!
あんなこと言われたんだって覚えてりゃ4年なんか楽勝だぜ」
『もとちか・・・お願い、私を受け止めて?』
だっけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・?
「忘れてください、今すぐに忘れてください!
今すぐに!!」
「んな惜しいことできるかっての」
「嫌です!今すぐに全てを忘れてください!!
・・・・・・もう私何言ってんだろ」
言う時にも緊張が凄かったのに。
後に残ったのは大きな後悔。
「将来的にはどうせ言うことになるんだしいいじゃねえか、な?」
「あれは言いません!」
「じゃあもっと恥ずかしいこと言うのかよ」
「・・・元親さんは言わせたいですか・・・・・・?」
確かに元親さん言わせたそうな顔してる気がしないでもない。
女性経験あったみたいでしね、それはもうしっかりと。
これを聞いても意味はないんだろうけど。
「ま、それは秘密だな。
でも二人の時ぐれえは元親って呼んでもらおうか?」
「いつからですか?」
「今からに決まってんだろ」
今・・・なう・・・この時からスタートですか。
「もとちか」
「おう!」
「・・・さん・・」
「だからさんはいらねえんだよ、ったく相変わらずだな」
そんなこと言われても。
今の私にしたら元親さんの唇見るだけでいろいろ思い出して恥ずかしいのに。
将来本当の意味で一緒になったとき私はどうなってしまうんだろう。
でも今よりは成長してるかな?
そんな期待を寄せてもう一度愛する人の名を呼んだ。
「元親」
と。
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