第六十二話

朝目が覚めて寒いと思えば、窓が開いていた。
昨日閉めたはずだったんだけど閉め忘れてたか・・・。


「くしゅっ!」

・・・・・・寒い。
でも頭がくらくらしてるというか。
風邪ひいちゃったかな。


だるい体を起こし、リビングに降りていくと母さんが心配そうに私を見ていた。
理由はきっと体調の悪さが目に見えてるからだろう。

休む?という問いをふたつ返事で返事し私は初めて学校を休むことになった。
やっぱり昨日と今日でちょっと無理しすぎたのかな・・・。



おやすみと一言言ってから上がると窓の向こうに元親さんがいるのが見えた。
もう出かける直前なのかスーツ姿だ。
声を掛けたい、でも声掛けれないという状態でいると向こうの窓が開いた。
それを見て咄嗟に私も勢いよく窓を開けたけど言葉が出ない。


「・・・おはよ、名前」
「おはようございます・・・元親さん。
 お仕事頑張ってください」
「お前さんも・・・って顔が赤いが大丈夫か?」
「ちょっと風邪ひいたみたいなので今日は休みます」
「そっか・・・」

やっぱり昨日の今日で罪悪感があって下手には話せない気がしてなかなか話せない。
元親さんも間違って記憶してるのか気まずそうにしてるし。
時計を見ると既に8時を迎えそうなところ。


「そろそろ時間ですから、私のことは構わず出てくださいっ!」
「お、おうっ!・・・お大事にな、ちゃんと寝とけよ」
「子供じゃないんですから・・・」

焦ったような顔をして家を飛び出してる元親さんの方が子供だと言いたかったけれどそれは胸の内にしまっておいた。
やっぱりこう・・・好きな人の自分だけが知ってるところとか残しておきたい乙女心、なのかな?
思春期ゆえの何かかもしれないけど。



「私も早く寝て治さないとな・・・」

目を閉じれば早々に訪れた眠気。
早く治りますように、そう祈りながら私は眠りに落ちていった。




//////////




「・・あ、起きられました!」

目が覚めたら鶴姫ちゃんの声が聞こえた。
ふと窓の外を見るともう真っ暗。
・・・私ずっと寝てたんだ。
おかげで熱とかだるさとかは引いたみたいだけど。

「鶴姫ちゃん、こんなに遅いのに・・・」
「私なら平気ですよ、家も遠くはありませんしね。
 それに姉さまもいますし」
「え、孫市ちゃん!?」

鶴姫ちゃんの後ろを見れば座ってお茶を啜ってる孫市ちゃん。
なんか凄い優雅だ。


「もう体はいいのか?」
「うん、ずっと寝てたから」
「それは良かった」

立ち上がってベッドに腰掛けると私の頭を撫でた。
その手が温かくて次こそ同じ年で生まれたかったと思ってしまう。
今じゃ先生だからな・・・。


「海賊さんはまだ来ませんね」
「え、元親さん来るの!?」
「・・・ふふっ、凄い驚きようですね。
 私がバシッと見ましたから!!」

一瞬期待してしまったけど・・・。
でもさすがにそれはないか。
平日だし、疲れてるだろうし。
ずっと寝てるって言っておいたし。


少し考えてた時だった。
部屋に近づく足音が聴こえた。

ドアが開いたと思えば、そこにいたのは母さん・・・。
べ、別に期待してなかったけど。


「名前大丈夫なの?
 雑賀先生も鶴姫ちゃんもごめんなさいねー、わざわざこの子の為に」
「いえ、大切な生徒の為ですから」
「私だって大切なお友達ですから」

そんな三人のやりとりに感動してた訳だけど。
母さんが少し端に寄ったと思ったら元親さんの姿が見えた。

「元親さん!?」
「名前ちゃん大丈夫か・・・?」

心配そうに見て、母さんに一礼すると部屋に入った。
母さんは三人が夕飯を食べて帰るかと確認すると下に降りていった。



「やっぱり来ましたね」
「そうだね、さすが鶴姫ちゃん」
「名前、そんなことは誰だってわかるぞ・・・」

呆れたように笑ってるけどそんなの私にはわからなかったもん。
予想を呆れられたって嬉しいからもういいよ。

「元親さんお仕事ご苦労様です、わざわざ来てくださってありがとうございます」
「わざわざってなあ・・・好きな女に会いに来るのに礼も何もいらねえよ、な?」

そんな元親さんが鞄から林檎を取り出した。
え、と戸惑ってるのにも関わらず淡々と皮をむいてうさぎりんごを作っていく。
そして最後の一つを完成させるといい笑顔で笑っていた。
・・・なんというか、さすがだな。


「っし、じゃ食べろよ」

元親さんが皿を私の前に持ってくるとまずは孫市ちゃん、続いて鶴姫ちゃんが手を伸ばして食べた。
二人に元親さんは少し怒ったけれど残ったうさぎりんごの数を確認し、平静を保った。

「名前、食べれるか?」
「あ、もうだいぶよくなったので」
「そうか、そりゃ良かったぜ」

安心したように笑った元親さんがうさぎりんごを一つ摘み、私の口元へ持っていった。
これってあーん、の奴だとか思ったけど・・・でもこれでいちいち恥ずかしくなったらまた子供だって思われるかなとか思い・・・・・・・
結果的に直接食べた。
恥ずかしかったけど。


そうしたら孫市ちゃんの「へタレが」という声が聞こえた。
え、これ私?
というか孫市ちゃん言ったの!?
そんな疑問が頭の中で回り本人を見たけれどいつも通りの孫市ちゃんだ。
次に元親さんを見てみれば俯いていてよく顔を見れなかった。

その代わり軽くむしゃくしゃした声が聞こえた。

「鶴の字、お前は目でも瞑ってろよ?」
「え、えー海賊さんのお願いなんか私は聞きません!」
「サヤカ!
 鶴の字に見せていいのかよ!?」
「・・・仕方ない、我らは先に下に行っておく。
 行くぞ、姫!」
「え、あ、はいっ」

そんなこんなで何故か元親さんと二人きりになった。
何があったんだろう。

「じゃあ邪魔ものはいなくなったことだしな。
 名前・・・こっち向け」

命令というか、結局は元親さんに顔を捉えられて強制的に向かされてるんだけれど。
うさぎりんごを銜えた元親さんが近づいてくる。
え、何この状況!!?




  


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -