第五十六話
将来を考えてみたりもしたものだけどやっぱり気になるのは将さんのこと。
前がどうだとかじゃないので今は今だ。
元親さんのことを、想ってるのかもしれない。
「元親さん、将さんは大丈夫なんですかね・・・」
「お、心配してんのか?」
「私にも罪悪感というものが」
「気にすんなよ?
あいつが今日俺に会うまでほんとに俺のこと忘れてたらしいぜ、今結婚してる訳だしな。
お前さんが大好きで困ってる顔見たかっただけだとよ」
・・・・・・・・・ん?
困ってる顔が見たい・・・・・・・?
大好きだとか絶対嘘だ、あの人絶対嘘言ってる。
というか元親さん信じてる。
「私いつの間にそんな恨み買われてるんですか・・・」
「何でだよ?
大好きだって言ってたぜ、心配すんな」
「元親さんは大好きだったら困ってる顔も見たいと思うんですか?」
「俺が名前の困ってるところを、見た・・・−こほん」
言いかけたが詰まってこほんと、ひとつ咳払いした。
見た、の続きは何だろうか。
見たまでなので、見たいのか見たくないのかもわからない。
「まあいいじゃねえか、それに俺はお前さんのどんな顔でも見せてほしいし。
一人で困ってんのを気付けねえとか嫌だしな」
「元親さー・・・結局どっちなんです?」
流れに流されそうにもなったが、聞きたいところが聞けてなかったのに気付いた。
元親さんは一瞬ちらりと親貞さんを見て、また私に向き直って言った。
「・・・俺は名前が俺のせいで困ってる時とか、正直すげえー」
「こんのクソ兄貴がああああ」
「とにかく好きな奴が自分のこと考えてくれてんだったら嬉しいし、普通に困ってんなら頼ってほしい」
元親さんは殴りそうになった親貞さんをひょいと交わし、そう言った。
親貞さんは壁にもろ当たってたんだけど大丈夫かな・・・。
「つまり見たいということですか?」
「俺に見せない表情なんて作ってほしくねえんだよ、いつでも俺の傍にいろ」
「元親さん・・・」
結局は流れに流されてしまい、将さんのことが最終的におかしいと気付いたのはもう少し先だった。
そして親貞さんはめげずもう一度元親さんに向かって走っていったがまた交わされてしまい、今度はいいかげんにしろと孫市ちゃんに怒られ泣きながら家を出て行った。
「親貞も行ったし、今の内に帰るぞ」
元親さんはにやりと笑い、車の鍵をくるくると指で回した。
多少は申し訳ないとは思うけど今の流れが続いたらいつまで経っても帰れない、そう判断した私たちは素直に車に乗り込み、岐路に立った。
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