第五十三話
4人がいるという駐車場を借りた家に戻るとさっそく家の主の人に握手をされた。
「俺、またアネゴに会えて嬉しいっす!」
「でも私今じゃ全然武家の妻らしさもなくなったって言いますか、昔なら長曾我部家の嫁失格みたいになってますし・・・」
「どこも変わってないっす、相変わらず綺麗で」
「そんなことはちゃんと自分の好きな人に言わなくちゃいけませんよ?」
「うっす!!」
長曾我部軍の人の中にでも私のことを覚えてくれている人がいるというのは嬉しかった。
なんだか元親さんのお嫁さんだったって認められていた気がした。
「名前さんおめでとうございます」
「結婚式には我々も呼ぶんだぞ、教え子とかではなく友人としていくからな私は」
「結婚してくれるんですかね、元親さん・・・。
それはともかく二人ともありがとうございました」
しばらく二人に囲まれてよく頑張ったと褒めてもらったんだけど、しばらくして見覚えのある顔を見つけた。
「義姉上!!ひどい!!前は好機があれば俺を選んでくださると言っていたのに!!」
「えーっと、親貞様?」
「親貞です!
また義姉上兄貴に取られたああああああああああ」
元親さんの弟の親貞様だった。
これで元親さんの兄弟ほとんどと会えたことになる。
親貞様は確かに私を慕ってくれてはいたけどそのノリがここまで来るとは思ってなくて正直驚いた。
「私はどうせ元親さん以外には考えられないんです」
「じゃあせめて義姉上!俺のことを親貞とお呼びください」
「えー・・・親貞さんで、じゃあ」
「うっ、兄貴の馬鹿野郎おおおおおおおおおおお」
走り去っていったんだけど大丈夫かな?
元親さんの方見たら未だに苦笑してるし、親泰さんも相変わらずだというように笑っている。
「長曾我部が何か粗相をしたら我の所にでも来い、嫁に取ってやる」
「そんな、私は元親さんにー」
「おまっ」
「毛利!義姉上は兄貴以外には絶対に渡さねえからな!!」
元親さんに何か言う前に戻ってきた親貞さんが元就さんに真正面から叫んだ。
少し離れた私でもちょっとうるさいなとか思うからきっと正面で聞いてる元就さんはもっとうるさいんだろうな。
「名前、こいつら騒いでる間にちょっと出ねえか?」
「あ、はいっ」
二人でこっそり外に出てみると空はほんのり赤かった。
今日一日でいろんなことがあったと今更ながらに思えてくる。
「今からだと十分夕日に間に合うな」
「そのようですね」
「結婚してくれねえか?」
「・・・」
まさか第二声目にプロポーズが来るとは思ってもみなかった。
そのおかげで私も息が一瞬詰まった。
「私の心はもう決まっています。
それにもう一度私の人生を貰ってくださると言ったばかりではないですか、もう元親さんの好きに動くんです私の人生は」
「そうだな、責任もって幸せにしてやる」
心の何処かでは私にはまだ早い言葉だとはなんとなく思ってる。
この世じゃ女子の結婚は16歳だから。
私はまだ14歳だ。
法的に結婚できる年齢から2歳も離れている、この2歳は結構大きいものだと思う。
昔は14で嫁いだというのに不思議なものだ。
「私は一度鬼に食べられました、だからもう私の身も心も全て鬼の者です」
14で鬼が済む土佐に嫁ぐと聞いた時は心底動揺した。
楽しそうだ、と。
ただ不安だ、と。
父上、母上、兄上と離れるのは寂しい、と。
でも着いたとたんの私の後悔は一つもなかった。
ただ全ての負の感情は消し飛ばされた。
一人の鬼によって消し飛ばされた。
元親さんによって。
だからもう私には元親さんしか選べない。
鬼に喰われた人間なんかに選択権も拒否権も何もないのだから。
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