第五十一話

「名前ちゃん!」

しばらく海を見ていたら元親さんが走りながら来た。
将さんはもういない。
帰ったんだろうか、そのことが気になっていると私の様子を見てか元親さんは将さんは帰ったと教えてくれた。

「駄目ですね、私。
 やっぱり他の女性が気になるんです」
「え?」
「元親さん・・・初めて会った時から初めて会った気がしないと思ったら本当にそうだったんですね。
 あんなにもお世話になっていたのにもかかわらず何も言わず、その上様々なご迷惑をお掛けしました、申し訳ございません」
「何、言って」
「ずっと夢だと思っていました、でも過去だったんですね」

私の言葉に元親さんははっとした。
心当たりはあるようだった。
やっぱり意図して私には何も言わなかったんだろう。



『ずっとずっと想い続けていました。
 死んでも、生まれ変わってもずっと・・・』

この言葉は今の私と
過去の私・・・きっと二人分ではないけれど私二人の想いなんだろう。

「思い出したのか?」
「今まで自覚してませんでした、本当にずっと夢だと思っていました」
「そうか」

冷静を装っているといいつつも、心臓がもうドキドキなんかではなくバクバクしている。
きっと元親さんは過去の私の言葉だと思っているんだろう、この反応からすると。
ああ、やるせない。

「もうよりは戻されたんですか?」
「・・・馬鹿野郎!」

私を襲ったのは元親さんの重みだった。
ぐらついた体は元親さんに包まれた。

「言っただろ、俺が言えねえ立場にいるならお前さんから言ってくれって。
 でもずりいよ、俺だって本当は言いたかった、愛してるって」
「過去の私をですか?」
「過去だって今だって関係ねえ、俺は名前が好きなんだ。
 不器用で泣き虫で・・・なのに俺を離さねえ名前が好きなんだよ!」


これは夢・・・?
夢じゃないんだよね?

今こうやって元親さんが私を抱きしめてくれているのは夢じゃないんだよね?
現実なんだよね?


「私もずっと好きです、大好きなんです」
「知ってる」
「知ってるって・・・」
「俺がお前さんしか選べないようにどうせ俺しか選べなかったんだろ?」

そうやって意地悪そうに笑う元親さん。
意地悪だとわかっているのにそんな元親さんに怒りなんて沸くはずがない、愛しさしか感じない。


「もう一度俺に名前の人生をくれねえか?」
「今の日本じゃ一夫多妻制はないですよ?」
「将には戻らねえよ、ずっと名前だけだ」
「心はどこにも行きませんか、私だけって言ってくれますか?
 じゃないとこの世じゃ私嫉妬しますよ、我慢なんてもうしません」
「そう来なくっちゃな。
 18になったら俺が全部奪ってやるから覚悟しとけよ、鬼が喰らいつくしてやる」
「懐かしいですね、その台詞も」

顔には笑顔が浮かぶばっかりだ。
元親さんも同じようで、嬉しかった。

「元親様、と呼んだ方がいいですか?」
「呼び名が変わったって何も全部変わる訳じゃねえ、今はこんな世だしな、今まで通りでいいんじゃねえのか?
 まあ二人の時ぐれえ元親って呼んでみろよ」
「それはもう無礼には当たらないのですね・・・時代も変わりました」

私が前に世と別れを告げて約400年ちょっと。
時代も変われば人も変わっていった。
それは私も例外ではないと思う。

でも、この海
そして、私が愛する人の愛は何も変わらないんだと思う。
それはこれからもずっと。




  


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