第五十話

「夢などではない」

元就さんの一言。
私の夢が夢でないのなら・・・。

「過去だ」
「か・・・こ・・・・・・?」
「そうだ、今の世が来る前、つまり前世だ。
 前世に長曾我部と結ばれた」
「私が、ですか?」


私が夢の中で元親と結ばれたというのは前世の記憶で。
その元親は今は元親さんで。
夢の中の元親の嫁である私は今の私と・・・。


「そんな馬鹿な・・・」
「ならこの偶然はなんだ?
 長曾我部だけではない、我、雑賀孫市、鶴姫、親泰までもが揃いも揃っておる。
 しかも記憶を持って、だ」
「皆さんも私と同じようにってことですか・・・?」

確かに初めて会ったような気はしなかった。
夢に出てくる人そっくりだったから。
でもそれは所詮予知夢みたいなものであって・・・予知夢じゃなかったら?
夢なんかじゃなかったら?

「嘘っ・・・では元就様、でしたか?」
「そうだ」
「鶴姫ちゃん・・・に、孫市ちゃん・・・?」
「そうです」
「そう呼ばれていたな、前は」

私の呼び方に違和感などないというように答える三人。

「ならば親泰様は・・・あの香宗我部家に行かれた元親様の・・・」
「俺も覚えていられたか、義姉上は」


さっきまで名前ちゃんと呼ばれていたのに。
今では親泰さんは私を義姉上だと呼んだ。


なら・・・元親さんは、元親と一緒だったんだ。



「でも、今の元親さんは私に何も仰られませんでした。
 所詮私は想われてはいません、あの時のように小少将様を選ぶ・・・」
「義姉上!
 信親だって後を継いだ盛親だって義姉上の産んだ子には変わりません」
「それは正室だったから・・・昔の私の血が良かっただけ。
 このことを確信してしまったらもう元親さんとはこれ以上関われないです・・・」

これまで優しくしてくれたのも、守ると言ってくれたのも全部過去の事あってなんだろう。
きっと私の気持ちをわかっていたからせめてもの罪滅ぼしとなったんだろう。
小少将様を愛したから・・・。
それが理由なんだろう。

「海賊さんは名前さんが大好きだったんですよ」
「鶴姫ちゃんにはそう見えたかもしれない・・・確かに愛しては貰ったよ?
 でも今日また会ったあの人に心は取られた、だからまたあの時みたいになるんだ・・・また心を取られるんだ」

「だから夢ではないと言っているだろう!!」


私が弱音を吐いている時だった。
ずっと話を聞いている方だった雑賀先生、もとい孫市ちゃんがそう怒鳴った。
私としては怒鳴られることは初めてで一瞬ひるんでしまった。

「だから夢ではないんだ、だから予知夢なんかではない。
 名前次第で変わるんだ・・・だから元親を信じろ」
「孫市ちゃん・・・」
「そうだ、もうわかってしまったら私は先生なんかではない。
 私らしくなく名前は私の大事な友だ、友の悲しい顔は見たくないんだ」
「そうだよね、・・・うん、そうだ!」

私は二度顔を叩いた。
その様子に目の前の男性陣二人は笑った。

「もう御心は決まったようですね!」
「うん、私はたとえ元親様・・・ううん、今じゃ元親さんだね。
 元親さんが今の私の体が好きになった人なんだよ」
「大切なのは未来だ」

過去に確かに傷を負った。
でも私はもうそこで止まらなくていいんだ。
今の世の中たとえ好きな人がいても諦めなくてもいいんだ、親が決めた結婚なんて無いんだ。

「皆さんありがとうございます。
 私は元親さんを諦めません、というか諦められないですこのままじゃ」
「義姉上、俺たちはさっきの家の所にいるから兄貴を頼みます」
「え、え、いきなりですか!?」
「思い立った日が吉日だというだろう、我も朗報を待っておる」
「名前さんなら大丈夫ですよ!」
「私も待っているからな、大事な友の晴れ舞台だ」
「そんなフラグも何も立ってないのに・・・」

元親さんに言うことなんて決まってる訳がない。
強いてや覚悟もまだない。

「じゃあ待ってますねー」

鶴姫ちゃんと孫市ちゃんが手を振って4人は去っていった。
今からは私の一人の問題なんだ。

深呼吸して海を見たけど落ち着くはずがなかった。





  


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