第四十九話

海まで連れてこられたとはいえ言葉は無かった。
沈黙の中で親泰さんが使う携帯の音がカチカチとなっているだけだった。
一通りの動作を終えたのかぱたんと携帯を閉じて、やっと親泰さんが口を開いた。

「あの女の人に見覚えはあった?」
「会った事はありません」
「でも知ってたっていう感じか・・・。
 名前ちゃん今元就と孫市と鶴姫を呼んでる、だからそれまで泣いててもいいけどあいつらも心配するから今だけで耐えれるか?」

私はずっと泣きそうな顔してたんだろう。
親泰さんの手が私の顔に伸びた。

「兄貴が今頃あの人に戻るとは思えねえけど辛いよな、そりゃ。
 信じても辛いよな・・・」
「な、んでわかったん、ですか・・・。
 私顔に出てましたか・・・」
「見てたからわかるよ、兄貴のこと大好きなのにまだ小さいのにいろいろ悩んでさ。
 今見てる奴は誰もいないから」

そんな親泰さんの優しい言葉に涙が込み上げてしまう。
いけないってわかってるのに、優しさに触れてさらに涙が込み上げ来る。

「いいから」
「親泰さっ、・・・うえええええっ」

こうやってないてしまうから私はいつまで経っても子供なんだろう。
大人になりたいと思っててもこんなんだから・・・こんなんだから子供なんだ。

親泰さんはしばらく泣き続けた私の背中を擦ってくれた。




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私が落ち着いてからだった。
親泰さんが呼んだあの三人が来た。

「名前さん、大丈夫ですか!?目真っ赤ですよ!!」
「あやつが将によりを戻さぬか、と言われたとだけ聞いたが」

鶴姫ちゃんが私の泣いてた後に気付いたのか持っていたハンカチで拭ってくれた。
元就さんはというと下種が・・・、とか呟いて溜息を吐いた。
そして雑賀先生はというと。

「なあもう話してもいいんじゃないか?」
「姉様・・・でもそれは海賊さんからか名前さんが気付くかと」
「石谷、いや名前はもう気付いているだろ。
 元親と何があったのかと」

元親さんと・・・?
何があったって・・・?

親泰さんの方を向いてみるけど凄く複雑そうな顔をしてる。
元就さんも珍しく同様だった。

「兄貴のこと好きだってことはわかってるんだ。
 でももし結婚してくれって言われたときに覚悟はあるか?受けてくれるか?」
「も、元親さんからのプロポーズなんてそんな・・・」
「本気だったら選ぶであろう、夢の中同様のあやつなら」
「どうして夢のこと・・・」

元就さんに詳しく夢のことを話した事は無かった。
なのに私の夢を見透かしたように言っている。

「もういいだろう・・・」

元就さんが意を決したように口を開いた。





  


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