第三話

高知に来てからの夏休みは私にとってすごく長く感じられる。

外は暑いし、道とかもあんまり知らないから外に出てみようと思っても怖いし・・・。
親も仕事だから、どうしようもないし。


私は岐阜にいたときは部活三昧だった訳だから、一人の時の過ごし方とかあんまりわかんないし。
とにかく暇で暇で仕方がない。


「ただいまー」
いつしか、私の日課は仕事から帰ってきた母さんを笑顔で迎えることだった。

でも、今日はいつもとなんだか違った。
母さんがえらくご機嫌だった。
鼻歌交じりに歌なんかを歌ってるし。


「どうしたの、何かあった?」
「別に〜。
 それより名前、その格好ははしたなくない?」

母さんが私を指さして言った。
私の格好、ーブラトップにハーパン。
人に会うって言われたらたしかに困るもんだけど、家の中だし。
うん、いつも通り。
まぁ、はしたないか、はしたなくないかで言われたらはしたないかもしれないけどさ。

「暑いもん」

それが、私の中での一番の理由だった。
現在の気温は29度。
暑さは、暑さが苦手な私にとって頭を悩ませるもののひとつだ。


「そう、へー。
 じゃあいいよ、母さんは言っといたもんね」
母さんは意味あり気に笑った。
え、何?どういうこと?

「何?」ーそう聞こうとしたとたんにチャイムが鳴った。

「はいはーい」
「??」

今日はまだ父さんは帰ってこなし、郵便とかかな?
それでも、何であんなに母さんはご機嫌なんだろう?
何かー

『こんばんはー』

ふと玄関のほうから聞こえてきた声。
この声は父さんでも、郵便局の人の聞きなれていない声でもなくて・・・

「おう、こんばんは、名前ちゃん、ーっ」
「元親さんっ、ちょっ、ちょっ・・・母さんの意地悪ーーーっ!!」

私は急いで部屋に身を隠すように飛び込んだ。
・・・・・・そういうことだったなんて。
不意打ちで、まさかの元親さんだったし。

反応から、はしたないって思われたんだろうな・・・。



『お前さんがボロ出しちまうとはな。
 はっは、気にすんなって!
 むしろ、俺はお前さんのそういうとこ、すっげぇ可愛いと思うぜ?』


「ーっ!?」
突然、私の中で響いた元親の言葉。
夢の中での記憶。


確か、この後しばらくやり取りがあって。

元親が私の頭をくしゃくしゃって撫でて子ども扱いされるわ、ボロ出しちゃうわで私は恥ずかしくなってちょっと向きになったんだ。
それで、何か言い返そうと思ってー

『どうせ、私は可愛くもないし、ボロも出してしまう情けないものでございます。
 元親様は何をしたって欠点なんかはありませんこと、私には本当に勿体無きお方でございましょうぞ』

『そう怒んなって。
 お前さんのどこに欠点があるってんだ?
 もし、てめぇ自身で欠点に感じるところがあったて、全部愛しい名前だ』


宥める様に恥ずかしいことを唆すから、結局私がちょっと吹き出してしまって二人で笑ったんだ。

『とにかく夏だからって油断してるとだるくなったりもしちまうからな、気ぃ付けろよ?』

『はーい』



・・・どうして、夢の中のことをこんなにはっきりと覚えてるんだろうね?

夢の話ってしようと思っても昔からこっちは覚えてるのに向こうは忘れてるものだから、ずっと不思議に思ってた。

でも、気づいた。
周りは何も変わってない、私が覚えていすぎたから。



「あ、元親さんにちゃんと挨拶してないっ!」

考え込む前に何をするために部屋に来たのかを思い出して、薄手のパーカーを羽織って私は部屋を出た。



//////////




「元親さん、こんばんは」
「よう、名前ちゃん。邪魔させてもらってるぜ」

元親さんは私の格好を見るなり、安堵したような溜息を一つ溢した。

「夏だからって、薄着でいたら風邪ひいちまう、せっかくの夏休みだろ?
 体に気ぃ付けねぇと・・・」
「はーい」


・・・・・・っ!?

さっき思い出した会話と似すぎてる。
殆ど同じだったことに、少々の驚きが顔に出てしまったようで元親さんに顔を覗き込まれる。

「どうした?」
「え、いえ、何もないんですけど・・・・・・
 ・・・元親さんって人から”欠点無いですね”みたいなことって言われたことありますか?」
「どうした、急に?」
「本当になんとなくなんです!べ、別にわざわざ答えなくてもいいんです、ごめんなさいっ」

謝った私にクスクス、と笑うと、一瞬複雑な顔をして元親さんは口を開いた。

「・・・大昔に一度だけ。
 まぁ、そいつが向きになって皮肉で言ったんだけどな」
と、いうことは・・・
普通に体験したことがあるっていうことは・・・


さっきのはよくある話。
所詮夢、私がちょっと疲れてて思い出したんだ!


「昨日のことのように憶えてんのにな、ずっとずっと昔のことだよ・・・」
「・・・きっと元親さんの中で今でも大切な人なんですね。
 そういうのって羨ましいですねー」
「思い出せばいいのにな・・・」

「え?」

元親さんが言ったことを聞き取れなくて聞き返そうとしたんだけど

『御飯よー』

という母さんの声が聞こえたから、私たちは立ち上がって食卓へと向かった。
すこし、聞き取れなかった罪悪感を胸にー・・・。







  


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