第四十六話
時間の流れによって私の気持ちもどうにか落ち着いたので元親さんから少し離れた。
元親さんも納得したのか腕の力を緩めた。
「元親さんありがとうございました」
「もう大丈夫なんだよな?」
「おかげ様で・・・。
笑わないんですか、元親さんは」
「何がだ?」
何がって・・・。
私が今泣きかけているということに。
初めて来たお墓の前でよく知らないはずの信親という人の墓参りで。
「思い出した、って訳じゃあねえんだよな?」
「思い出すって・・・?」
「何にもない、こっちの話だ。
名前ちゃん、このことは一生かかってもわからないのかもしれないし、もしかしたら明日にでもわかるかもしれないんだ。
だから・・・焦らなくてもいい。
だけどこいつのことを忘れないで欲しいんだ、信親のことを」
元親さんの言っていたことは私は半分も理解することができなかった。
実際元親さんもどう説明したらいいのかわからないという表情をしている。
きっと本来は言いにくいことなんだろう。
「忘れませんよ・・・たぶん忘れられません」
信親、という人をよくは知らない。
会った事は無いはずだ。
でも親近感が出て涙が出そうになったのは、きっと夢のせいだろう。
『母上!』
『千雄丸、今日も元気でなによりよ』
『それは父上が頑張ってこの地を治めてくれているから故でございまする!』
『そっか・・・父上様は好き?』
『某にとっては父上も母上も大事な方故大好きでございまする!』
これは一体夢でしかないのだろうか。
本当は現実だったんじゃないだろうか。
元親さんだけじゃなく、鶴姫ちゃん、雑賀先生、元就さん、親泰さんは夢の中から出てきたと言っても過言では無いほど夢の中の姿と似すぎている。
『それが前世だと考えてみろ』
元就さんに初めて会った時に言われた言葉。
もし今までの夢が前世だとしたら・・・なんて本気で思ってる私はおかいしんだろうか。
もし可能性がないこともないのなら。
私はずっとずっと元親さんのことを・・・
想ってきた。
そして、想われてきた。
なんて自惚れるのは許されないことなんだろうか。
「名前ちゃん、そろそろ行くか」
「はい」
差し出された手に甘えることは許してほしい。
決して自惚れようとはしないから。
与えられたものを受け取ることぐらい許してほしい。
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