第四十五話

車が止まったと思ったらどこかの民家だった。

「ここですか?」
「いや、現地で止めれなくても嫌だからなここで止めたんだよ。
 ちょっくら歩くけどいいよな」
「はい」
「じゃあ俺はここの奴に言ってくるから」

元親さんはそう言って家の方へ足を運んだ。
その間に残った親泰さんと私。

「親泰さんは初めから私が元親さんの彼女ではないとお気づきでしたか?」
「まあ・・・ぎこちなかったし。
 兄貴が名前ちゃんにだいぶ迷惑かけてるみたいで悪いな、孫市やら元就やら鶴姫やらに聞いた」
「いえいえ、私ほんとにお世話になってる方ですしー」
「ですし、恋してるから・・・か?」
「なっ」

え、何でこの人知ってるの?
情報源どこからなの?
パニックになった私を親泰さんは少し笑った。

「カマかけてみたけど本当にそうだったとはな」
「親泰さんひどいです!私の純情弄ばないでください!」
「俺はさ、応援してるから。
 名前ちゃんが姉になったって今更何にも驚きもないから」

驚きはあるでしょうに。
そう思ったのに親泰さんは嘘をついた風ではなかった。
まるでそれが普通のことだというように。

「それでも今元親さんがこうやって私を誘ってくださるだけで本当に嬉しいんです。
 これ以上のことが起こるのは贅沢ですね」
「そんなこと言って兄貴にプロポーズされても知らねえぞ?」

悪戯っぽく笑った親泰さんに元親さんが重なってやっぱり兄弟似てるものだなと思って笑ってしまった。
そんな私の頭を撫でた親泰さん。

「まさかこうやって頭撫でる日が来るとは思わなかった」
「そんなこと言われましても」
「俺がいない間、面倒だろうが兄貴を頼んでもいいか」
「頼まれましたよ」

その時だった。

「アニキッ・・・、あの人、あの人はアネゴですかっ!?」

元親さんと一緒に出てきた人が私を指さしてそう叫んだ。
ひどく驚いている様子だけど。

「アネゴ!俺、アネゴにまた会えてっ・・・うごあ!」

その人がこちらへ駆けようとしたとたんに元親さんが一発その人を軽く殴った。
殴ったよ・・・グーで。
それでも痛くないのか笑ってるけど、でもさっきの声は凄かったよ。

「あのっ、大丈夫ですか?」
「大丈夫です!
 アニキとの結婚式はまだですか!?」
「へ、結婚式?」
「いいから落ち着きやがれっ!!」

とうとう見ていられなくなってのか元親さんが私とその人との間に入った。

「いいか、この子はまだ14歳だ。
 結婚も何もまだできる訳がないだろうが!
 あと怖がってんだから気付け!」
「すいませんっす、アニキ!」

しょぼんとしてしまったが元親さんがすぐに肩を叩いて元気づかせた。
その人もその人ですぐに「アニキ・・・」と元親さんを見て嬉しそうにしていた。
元親さんのアフターケアがいいっていうことなのかな。

「待たせたな、そろそろ行くか」
「アニキッ!帰りも是非寄ってってください!」
「寄れたらな!」
「アネゴも一緒に来てください!」
「あ、はいっ」

私がアネゴでいいのかなとか少し不安に思ったけど流れ的にそうでいいんだろうと判断して返事をしておいた。

「悪いな、名前ちゃん」
「いえいえっ、とってもいい人そうじゃないですか」
「そうだな、俺の自慢の野郎共の一人だよ」
「あ、そういえば『アニキ』って言っていましたけど。
 もしかしてそのそっち系の方ですか?」


その瞬間に元親さんが固まってしまった。
踏んではいけない地雷だったんだろうか。
不安になって親泰さんの方を向いてみるけどよく見たら笑いを堪えているみたいだった。

「名前ちゃん、そっち系っていうかちょい不良みてえな奴らは嫌いか?」
「他の人に迷惑かけないならありだと思います」
「だってよ、兄貴」

元親さんの方をまた向いてみると固まったところから解けたらしい。
元に戻っていた。

「お、見えてきたみたいだ」

しばらく歩いて元親さんが指さしたと思うと見えたのは”元親公史蹟前”という文字。
え、元親ってあの長曾我部元親?
元親さんが元親の墓に来ているっていうことなの?

「元親さん・・・?」
「名前ちゃん、違う、ここは天甫寺山だ」

顔が強張っていく私に大丈夫かと心配しながらも手を取って前に進む元親さん。
親泰さんも黙って付いて来ているけど苦笑いが浮かんでいる。

墓を示す石碑を過ぎて階段を上るとひっそりとそこに一つの墓があった。
そこにはいくつかのお酒が供えられており眠る主が愛されていたことがわかる。

「先に悪いな」

親泰さんが墓の前で合掌した。
そしてし終わると先に降りているという合図をして階段を下りて行った。

「ここ、たぶん眠ってんの信親っていう奴なんだよ」
「のぶちかって、信親・・・信親・・・」

私が知ってる信親は一人しかいなかった。
夢で出てきた私の子ども。
それが現実な訳がないとわかってるのに心が凄く揺れている。

「信親はいつ?」
「親父より先に逝っちまったよ」
「嘘っ・・・嘘、信親が、信親っ!」
「落ち着けっ!名前!」
「っ、ごめんなさい。
 先降りててください・・・」

早くしないと私が泣いてしまいそうだった。
それでもそこを動こうとしない元親さん。

「すぐに行きますから」
「んなこと聞いてんじゃねえよ、泣き顔見せられてとことこどっかに言っちまう男がどこにいんだ!」

泣きかけている私をベンチに座らせて、元親さんは私を強く抱きしめた。
また気を遣わせてると思って大丈夫です、と声を掛けて離れようとするけど元親さんを振り切れる力を込められる訳がなかった。

「俺が助けてやるって言ったろ、な?」
「そんなこと言ったって・・・いつも私迷惑かけて、甘えて元親さんに負担ばっかりかけてるのに」
「負担なんて掛かってねえよ。
 俺を頼ってくれよ」

元親さんの言葉が私の手を動かし、私はとうとう元親さんの背に手を回した。
その後に聞こえた元親さんの「それでいいんだ」という言葉にどうしても自分が嫌になってしまったけど元親さんの体温が温かくて動けなかった。




  


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